創薬開発において、ヒト生体での予測性が高いin vitro評価モデル系の必要性が高まっている。近年、生体模倣システム(Microphysiological System; MPS)の概念が確立されてきた。MPSの活用は、医薬候補品の安全性や薬物動態等を評価し、創薬過程において毒性等の副作用の早期検出や、動物試験結果のヒトへの外装性の懸念を軽減できるなど創薬の効率を向上させると期待されている。
 MPSの機能的コンセプトとして、細胞の品質と細胞の環境の2つが重要である。MPSに搭載する細胞ソースを如何に準備、調整するかにより、MPSでの評価結果の正確性、堅牢性、再現性が大きく影響を受けると考えられる。私たちは、AMED「再生医療の産業化に向けた評価基盤技術開発事業(再生医療技術を応用した創薬支援基盤技術の開発)」において、MPSに実装する細胞の「質」が極めて重要な開発要素と捉え、生体肝移植の際に得られる肝組織を活用する研究開発を実施している。慎重な倫理手続きを経て、供与された肝組織から肝細胞を分離し、同時に同一の組織提供者血液からiPS細胞を樹立している。国立成育医療研究センターは、年間約50例の生体肝移植を行う世界有数の実績がある。肝組織から単離する肝細胞の活用を検討するとともに、同一のドナーから作製したiPS細胞由来肝細胞の機能の相関性についても解析を行っている。これにより、アイソジェニックなセルリソースとして、肝細胞とiPS細胞由来肝細胞を初めて比較評価可能となる。
 本講演では、貴重な肝細胞リソース活用の可能性と、iPS細胞由来肝細胞も応用した検討について報告する。さらに、MPS応用の観点から、多能性幹細胞であるiPS細胞を活用することで、分化誘導物を疑似臓器(オルガノイド)として揃えることも可能となる。ここでは、iPS細胞由来の「細胞」から「臓器」への可能性についても触れていきたい。