【目的】ヒト生体試料を用いたin vitro試験でCYP3Aの阻害や誘導が認められ、臨床での薬物相互作用(DDI)を予測する際、薬物濃度を一定と仮定する静的薬物速度論モデルを用いると消化管でのDDIが過大評価される場合が多い。一方、消化管上皮細胞中濃度推移を表現可能な生理学的薬物速度論(PBPK)モデルを用いた場合、弱い相互作用薬のDDI予測を過小評価する傾向があることが過去に報告されている。そこで、PBPKモデルを用い、弱いDDIを過小評価せずに予測する手法について検討した。【方法】臨床試験でミダゾラム(典型的CYP3A基質)との相互作用が弱いか認められなかった17種類の市販薬について、ヒト肝ミクロソーム(プール)を用いてCYP3A可逆的阻害および時間依存的阻害(TDI)を測定し、ヒト凍結肝細胞(プール)を用いてCYP3A誘導を測定した。GastroPlus(ver.9.6.0001)を用いてPBPKモデルを構築し、ミダゾラムとのDDIを予測し臨床結果と比較した。また、本手法を降圧薬であるエサキセレノンのDDI予測に応用した。【結果・考察】評価したうちのほぼ全ての市販薬がin vitroでCYP3Aの可逆的阻害とTDIを示し、半分以上が誘導を示した。過去にTDIの報告がない薬物もあり、TDIをPBPKモデルに組み込むことでDDI予測の過小評価が抑制されたため、弱いTDIを考慮しなかったことが過去に報告された過小評価の一因と考えられた。阻害と誘導両方のパラメータを組み込むことで、過大評価は一部見られたものの過小評価することなくDDIを予測できた。阻害と誘導を併せ持つ薬物が多く作用の相殺が起きたため、シミュレートされた消化管上皮細胞中濃度の妥当性をDDI予測精度から考察することはできなかったが、一連の検討でPBPKモデルの有用性が確認された。エサキセレノンはin vitroでCYP3AのTDIと誘導を示すが、臨床試験におけるミダゾラムの血漿中濃度への影響はわずかであった。GastroPlusを用いたシミュレーションにより、エサキセレノンのDDIが主に消化管で起こっていること及び阻害と誘導の相殺によりDDIが弱まっていることが示された。また、阻害と誘導の相殺のため、エサキセレノンとミダゾラムとのDDIは投与期間、投与タイミング、投与量の変更の影響を受けにくいことが示された。