【背景・目的】薬物性肝障害の主たる要因の一つと考えられているミトコンドリア障害には、呼吸鎖複合体阻害(RCI)やミトコンドリア透過性遷移(MPT)の惹起などの機序がある。このうちRCIは、培地中の糖源をガラクトースに置換した細胞ベースの評価系が存在するが、MPTの評価は主に単離ミトコンドリアを用いた手法に留まっている。単離ミトコンドリアでの評価は、親化合物による影響を直接的に評価できる点で有用だが、代謝物による影響が加味されない点で不十分である。過去に我々はラットin vivoの検討において、リポポリサッカライドの前投与がMPT誘導薬による肝毒性を見やすくすること、その際に一過性虚血がMPT感受性増強に働いている可能性を見出だした。そこで本研究では、in vitroの細胞系において一過性虚血を一過性低酸素(H/R)で再現し、それによれによってMPTを介した肝細胞死の評価が可能となるかについて検討した。
【方法】初代マウス肝細胞のミトコンドリア機能を賦活化させるために、i)サンドイッチ培養、ii)糖源をグルコース(Gluc条件)からガラクトース(Gala条件)に置換した培養条件を設定した。Day 3のマウス肝細胞に各種薬物を曝露後、マルチガスインキュベーターを用いて1% O2で4時間、その後40% O2条件で20時間培養した。細胞死は培養上清への乳酸脱水素酵素の漏出率で評価した。
【結果・考察】H/R処理を用いて薬物による細胞死への影響を評価した結果、MPT誘導が既知の3薬物(フルタミド、ベンズブロマロン、トログリタゾン)において、Gala条件でかつH/R処置を行った群でのみ顕著な細胞死を認めた。この細胞死におけるMPT依存性を確認するために、MPTの構成因子の一つであるCyclophilin D欠損マウス由来肝細胞にて同様の検討を行った結果、いずれも細胞死は有意に減弱し、MPTの関与が示された。一方、RCIによる細胞死が既知の薬物(ロテノンなど4薬物)については、Gluc条件に比べ、Gala条件において細胞死は増強したものの、H/R処置による細胞死増強は認めなかった。
【結論】サンドイッチ培養、Gala条件とH/R処置を組み合わせることで、MPTを介した肝細胞死評価が可能となった。本手法は、培地中の糖源置換によりRCIを介した肝細胞死を鋭敏に検出する既存の手法に加え、これまで検出困難だったMPTを背景機序とするミトコンドリア障害に起因した肝細胞死の評価を補完しうる点で有用と考えられる。
【引用】Arakawa K et al., J Toxicol Sci. 44(12):833-843 (2019); Ikeyama Y et al., Toxicol In Vitro. 67, 104889 (2020)