【目的】トラスツヅマブなどの分子標的型抗ガン剤の出現によりガン患者におけるガンを原因とする死亡率が減少している。一方で、抗ガン剤による重篤な副作用である心不全の発症頻度が増加しており問題となっている。非臨床試験において、抗ガン剤による収縮障害・心不全の副作用を検出できる評価法は動物実験に限られている。そのため、ヒトiPS心筋細胞等のヒト細胞を用いたin vitro評価系の構築が期待されている。本研究では、ヒトiPS心筋細胞を用いて三次元心筋組織を作製し、それによる収縮評価系の構築を試みた。
【方法】ヒトiPS心筋細胞と間質細胞(HS-27a)の細胞懸濁液およびフィブリノーゲン・トロンビン混合液を、2つのピラーが下向きに伸びているシリコンラックが設置されているアガロースゲルで作製した型に流し込み三次元心筋組織を作製した。三次元心筋組織を数週間ほど培養し、遺伝子発現レベルの検討や薬理学的検討に用いた。
【結果】数週間の培養により、遺伝子レベルでの成熟化が亢進することを見出した。また、βアドレナリン受容体アゴニストであるイソプロテレノールにより拍動数および収縮力が濃度依存的に増強し、βアドレナリン受容体アンタゴニストであるプロプラノロールにより拍動数および収縮力が濃度依存的に減弱することを確認した。次に、収縮障害を検出するためアントラサイクリン系抗ガン剤であるドキソルビシンを三次元心筋組織に対して24時間ごとに72時間まで曝露したところ、時間及び濃度依存的な収縮障害が観察された。
【結論】ヒトiPS心筋細胞を用いた三次元心筋組織を作製し、収縮評価系を構築した。βアドレナリン受容体に対する反応性はヒト心筋と同様であった。今後、抗がん剤等の収縮障害に対する評価系としての妥当性を検証するため臨床あるいは動物実験との比較・検証を行う必要がある。