【目的】
Drug-induced liver injury (DILI)は、医薬品の開発、販売中止の主な要因となっている。日本におけるDILIの原因の40%は、胆汁うっ滞または胆汁うっ滞と肝細胞障害の複合型である。このため医薬品開発において、できるだけ早い段階で胆汁うっ滞によるリスクを予想することが重要である。胆汁うっ滞のリスク評価には高精度に胆汁排泄を定量評価することが必要であり、そのためには胆汁排泄能を有した毛細胆管を十分に形成させることが求められる。しかし、ヒト凍結肝細胞を用いた培養系では、伸長した毛細胆管のネットワークを形成することが難しく、これが薬剤の胆汁排泄への影響を評価する上での課題であった。これまでに私達は、ヒトiPS細胞由来肝細胞を用いて細胞接着面全体に伸長した機能的な毛細胆管を形成させる培養条件を見出した。本研究では、この培養方法を基本としてヒト凍結肝細胞で機能的な毛細胆管を形成させるための至適培養法を検討した。
【実験方法と結果】
細胞はXenoTech社のヒト凍結肝細胞を使用し、培地にはヒトiPS細胞由来肝細胞において使用した市販の培地Aと培地Bを使用した。細胞播種翌日から培地Aで10日間サンドイッチ培養し、その後、培地Bで5日間サンドイッチ培養すると、位相差顕微鏡観察により細胞接着面全体に伸長した毛細胆管様構造体が観察された。この際、qPCR発現量測定により、胆汁排泄トランスポーターであるBSEPとMRP2の発現量がヒトの肝臓と遜色ないことが明らかになり、免疫染色により、それらが毛細胆管様構造体に局在することが確認できた。さらにBSEPとMRP2の蛍光基質を細胞内に取り込ませると毛細胆管様構造体へと排泄されることが明らかになった。これらの結果から細胞接着面全体に形成された伸長した毛細胆管様構造体が胆汁排泄能を有した毛細胆管であることが示唆された。しかし、この培養法では毛細胆管を良い状態で維持できる期間が培養16日目から18日目と短く、培養21日目になると蛍光基質の排泄が顕著に観察できなくなる領域が存在した。そこで培地Bに市販の長期培養用の添加試薬を添加したところ、培養25日目まで細胞接着面全体で蛍光基質の排泄が観察できるようになった。
【結論】
ヒト凍結肝細胞において機能的な毛細胆管を形成するための培養法を確立することができた。今後はこの培養法を胆汁排泄や胆汁うっ滞毒性の評価に導入する予定である。