近年、世界的なGDPの増加に伴ってプラスチックの生産量が増加し続けている。2015年には世界中で4億トン以上のプラスチックが生産され食品包装や繊維、消費財など我々の生活の様々な場面で使われている。その一方で、プラスチックごみによる環境汚染が問題視されており、毎年1000万トン以上ものプラスチックごみが海洋へ進出し、深刻な海洋汚染を引き起こしている。海洋へ排出されたプラスチックごみは海表面と海底を漂い、その過程で日光や機械的摩擦によって劣化し、細かく分解されることでマイクロプラスチック(MP)となる。MPが海洋生物と生態系に与える影響に関しては多くの報告例があるが、それらを摂食するヒトに対する影響に関しては未知な部分が多く、科学的な知見や根拠が必要である。マウスを使った動物実験では肝臓、腎臓、腸管へのMPの蓄積が確認され、各臓器への酸化ストレスと炎症反応、脂質代謝異常、エネルギー代謝異常を誘発していたことが報告された。しかし、動物実験にはヒトとの種差の問題や倫理的な問題、MPの体内動態が不明といった問題点がある。そのため、生体組織の微小環境をin vitroで再現することは、この問題を解決するための魅力的なアプローチである。本研究ではより生理学的なヒトin vitroモデルを用いてMPの体内動態と毒性を明らかにすることを目的としている。我々はCaco-2細胞、HT29-MTX-E12細胞、M細胞などヒト小腸の機能を代表する細胞を共培養することで生理的なヒト小腸in vitroモデルを構築し,その共培養系にMPsを曝露することで腸管への取り込みと細胞毒性のメカニズムを明らかにした。また、ヒト単球由来の細胞株であるTHP-1細胞から分化させたマクロファージ様細胞にMPを曝露して、免疫毒性を調べた。その結果、MPのサイズによって小腸上皮の透過経路が異なる可能性があることを明らかにし、免疫細胞によって組織に炎症反応が起きる可能性があることが判明した。今後は、体内動態の数理モデル化を行うとともに、細胞や組織、臓器に対するMPの毒性や免疫反応を詳しく調べ、最終的にはMPの曝露量から毒性を予測できるような数理モデルの構築を行い、未解明なMPのヒトへの影響を解明する。