背景:カンゾウ(甘草)は2%以上のグリチルリチン酸(GZA)を含む生薬で、カンゾウ含有の炙甘草湯や苓桂朮甘湯は、動悸に対する効能または効果が報告されている。一方、カンゾウ含有の漢方内服患者でトルサードドポアンツを含む心室不整脈が報告されている。しかし、それらの作用機序は完全には理解されていない。そこでヒトiPS細胞由来心筋細胞を用いて、心筋イオンチャネルに対する修飾作用を明らかにし、慢性房室ブロック犬モデルを用いて、催不整脈リスクを評価した。
方法:実験1:多電極システムのプローブ上にヒトiPS細胞由来心筋細胞の2次元細胞シートを作成し、GZAの主要代謝物であるグリチルレチン酸(GRA)0.1、1、および10 μg/mLを累積的に加えた(n=6)。64電極中の1対の電極より電気ペーシングを行った。実験2:甘草湯エキス細粒を、2 gまたは6 g /日の用量で、覚醒下の慢性房室ブロック犬(体重約9 kg)に3日間連続経口投与した(n=4)。ホルター心電図を1日目の投与前と3日目の投与前後に記録した。
結果:実験1:GRAは、濃度およびペーシング頻度に依存した有効不応期間延長とペーシング部位から半径300 μm内で伝導遅延を示し、解離速度の速いNaチャネル遮断作用を有することが示唆された。また自動能促進作用を示し、Caチャネル遮断作用を有することが示唆された。再分極時間延長作用は見られなかった。実験2:高用量は、心室内伝導は変えずに洞結節の自動能および心室固有調律を抑制し、4匹中1匹の犬に心静止を引き起こした。一方QTcは延長せず、トルサードドポアンツは発生しなかった。これらの反応は低用量では誘発されなかった。高用量投与群では血漿K+が4.2(初日)から3.9 mEq/L(3日目)へ減少したが体重や血圧は増加しなかった。
結論:カンゾウはlidocaine様のNaチャネル遮断作用を示した。再分極時間延長は認めなかったので、Kチャネル遮断や血漿K+濃度低下による作用がCaチャネル遮断によって相殺されたと考えられる。カンゾウの臨床用量の18~27倍における洞結節の自動能および心室固有調律の抑制は、それぞれCaチャネルおよびNaチャネル遮断によると考えられる。これらの作用がカンゾウの臨床的有用性を一部説明すると考えられた。