肝線維化は、炎症による損傷治癒反応の繰り返しの結果、コラーゲンが過剰に蓄積することで起こる。線維化の治療法確立のために、疾患のメカニズム解明は不可欠である。メカニズムを解明するために、条件を変えて詳細に研究することが可能なin silicoモデルが果たす役割は非常に大きいと考えられる。肝線維化のin silicoモデルの研究は、エージェントベースモデル(ABM)を用いた先行研究が報告されている。しかし、コラーゲンの産生機構が実際と全く違う形で実装されているため、治療において最も重要と思われる肝線維化の初期段階が再現できていないという問題点があった。本研究では、先行研究の問題点を解消し、線維化の挙動をメカニズムベースで再現するin silicoモデルを構築することを目指す。
まず、米国ピッツバーグ大学で報告されたモデルの骨格を使用し、コラーゲンを産生する細胞をMyofibroblastとPortal fibroblastの二つに分け、両細胞の挙動を現実に即したものに改変した。
構築したモデルの妥当性を検証するため、モデルと実際の臓器切片の様子を比較したところ、実際の臓器での線維化挙動が程度再現可能となったことが分かった。
次に、肝線維化進行のトリガーを探索するために毒性物質の暴露を中断した。20stepで中断したときは、肝線維化は起こらなかったが、30stepで中断したときは、肝線維化は進行した。死細胞数をモニターした結果から、死細胞が一定以上を超えるまでは肝細胞の増殖による修復が可能であるが、一定以上を超えると修復が間に合わなくなり線維化が進行することが示唆された。
さらに、報告されている肝線維化関連因子の線維化に対する影響をモデル上で検証した。まず、Kupffer cells (KC) とHepatic stellate cells (HSC) の肝組織に占める割合を変化させた。KCの細胞数の初期値が全体の15%以上の場合、コラーゲンの産生量は一定になった。HSCの細胞数の初期値は、増加するとMyofibroblast由来のコラーゲンの量は増加し、Portal fibroblast由来のコラーゲンの量は減少した。二つのコラーゲンは肝臓の構造を保つために重要な役割を果たすため、偏りなく存在する最適値がある可能性が高い。このように、KCとHSCの細胞数には最適値が存在することが示唆された。
以上のように、コラーゲンを産出する細胞を改変することで、初期の線維化の挙動をある程度再現することに成功した。また、モデルの感度解析から、肝線維化の不可逆性に死細胞数が大きく関わっていることや、KCやHSCといった肝構成細胞の存在数比に最適値があることが示唆された。今後は、コラーゲン分解プロセスなどを組み込んだより精緻なモデルとすることで、線維化の初期の挙動を再現したin silicoモデルを構築し、新規治療法の提案につなげることを目指す。