細胞外小胞(Extracellular vesicles, EVs, エクソソーム)は細胞から分泌される直径50-200 nmの小胞であり,包含するRNAやタンパク質等分子を細胞間で輸送することで細胞間情報伝達において重要な役割を果たしている。近年,EVsがこれら包含分子の細胞間輸送を介して様々な疾患における免疫反応を調節することが報告されており,治療標的やツールとして注目を集めている。しかし、薬物誘導性の副作用におけるEVsの役割についての報告は非常に限られている。そこで、我々は、新たな治療ストラテジーとしてのEVsの可能性を検討するため,自己免疫性肝炎モデルであるコンカナバリンA (Con A)誘発性肝炎マウスにおけるEVsの関与を検討した5)。その結果、マクロファージ由来EVsが包含miRNAsによる炎症性サイトカイン産生調節を介して,Con A誘発性肝炎の病態調節に重要な役割を果たすことが示唆された。EVsは自己免疫性肝炎の治療標的として有用となりうることが示された。また、血中のEVsが、精巣毒性の非侵襲的バイオマーカーとしての適用性について、ラットに典型的な精巣毒性薬を投与して検討した6)。その結果、血清EVs中の2種類のmiRNA(miR-128-3pとmiR-423-5p)が、非侵襲的診断マーカーになる可能性を示した。
薬物性肝障害 (DILI)の予測においても、血中miRNAは非侵襲性かつ障害部位特異的なバイオマーカーとして期待されている。当研究室では、肝障害の病型別miRNA変動の網羅的解析を行い、rno-miR-143-3p及びrno-miR-218a-5pが重度の胆汁うっ滞性肝障害を呈するラット血漿中で早期段階より増加することを報告した9)。しかし、これらのmiRNAが障害の重症度に依存して増加するか明らかにされていないことから詳細な検討を行った3)。その結果、miR-218a-5pは胆管上皮細胞死を誘導することで胆汁うっ滞性肝障害に寄与し、障害を受けた胆管上皮細胞から重篤度依存的に血漿に逸脱することを明らかにし、血漿中miR-218a-5pの上昇は胆汁うっ滞性肝障害の指標として有用であることが示唆された。さらに、血中miRNAによる尿細管障害と糸球体障害の予測についての検討を行った8)。その結果、miR-3473は糸球体障害特異的に発現上昇することが示された。また、miR-143-3pとmiR-122-5pはいずれの病態でも発現が低下した。今後は様々な障害起因薬、障害の程度等を考慮した検証研究が必要である。
 EVsやmiRNAは、血中で安定的に循環しており、非侵襲的バイオマーカーとしてのさらなる可能性が明らかにされるであろう。研究の更なる発展により、副作用発現の定量的リスク予測が可能になり、「idiosyncratic」という曖昧な言葉が廃れることが望まれる。
【参考文献】
1) Tsuyoshi Yokoi and Shingo Oda. Models of idiosyncratic drug-induced liver injury. Ann. Rev. Pharmacol. Toxicol., 6: 247-268 (2021). doi:10.1146/annurev-pharmtox-030220-015007. PMID:32976738
2) Shingo Oda, and Tsuyoshi Yokoi. Recent progress in the use of microRNAs as biomarkers for drug-induced toxicities in contrast to traditional biomarkers: a comparative review. Drug Metab. Pharmacokinet., in press (2021). doi:10.1016/j.dmpk.2020.11.007. PMID:33461055
3) Shingo Oda, et al., Plasma miR-218a-5p as a biomarker for acute cholestatic liver injury in rats and investigation of its pathophysiological roles. J. Apply. Toxicol., in press (2021). doi:10.1002/jat.4144. PMID:33565098
4) Ru Jia, et al., Pharmacological evidence for the involvement of ryanodine receptors in halothane-induced liver injury in mice. Toxicology, 443: 152560 (2020). doi:10.1016/j.tox.2020.152560. PMID:32795494
5) Reo Kawata, et al., Macrophage-derived extracellular vesicles regulate concanavalin A-induced hepatitis by suppressing macrophage cytokine production. Toxicology,443: 152544 (2020). doi:10.1016/j.tox.2020.152544. PMID:32739513
6) Reo Kawata, et al., Exploration of small RNA biomarkers for testicular injury in the serum exosomes of rats. Toxicology,440: 152490 (2020). doi:10.1016/j.tox.2020.152490. PMID:32418910
7) Ru Jia, et al., Establishment of a novel mouse model of troglitazone-induced liver injury and analysis of its hepatotoxic mechanism. J. Appl. Toxicol., 39(11): 1541-1556 (2019). doi:10.1002/jat.3838. PMID:31294483
8) Takumi Kagawa, et al., A scrutiny of circulating microRNA biomarkers for tubular and glomerular injury in rats. Toxicology, 415: 26-36 (2019). doi.org/10.1016/j.tox.2019.01.011. PMID:30682439
9) Takumi Kagawa, et al., Identification of specific microRNA biomarkers in early stage of hepatocellular injury, cholestasis, and steatosis in rat. Toxicol. Sci., 166(1): 228-239 (2018). doi:10.1093/toxsci/kfy200. PMID:30125006