現在、in vitro 腸管薬物動態試験には、ヒト結腸癌由来細胞株である Caco-2 細胞が汎用さ れているが、薬物代謝酵素や特定のトランスポーターの発現量が生体のヒト腸管に比べて低 い等の問題がある。これらを解決しうるとして、我々はヒト iPS 細胞から分化誘導した腸 管上皮細胞の開発を行ってきた（1-4）。本講演では、まず、高機能なヒト iPS 細胞由来腸 管上皮細胞の作製に向けた我々の試みを紹介する。 一方近年、オルガノイド培養技術が開発され、再生医療だけでなく、創薬研究への応用を 目指した新しい培養技術として注目されている。現在では、様々なヒト組織由来のオルガノ イドが作製可能になっているが、腸管オルガノイドは最も研究が先行している領域である。 しかしながら、ヒト腸管オルガノイドの薬物動態試験への応用を目指した研究は皆無に等し い。そこで我々は、生検由来ヒト腸管オルガノイドに着目し、その薬物動態試験系への応用 可能性を検討している。
まず、ヒト十二指腸生検組織から既報に則って腸管オルガノイドの樹立を行い、継代によ り増幅、凍結保存により実験基盤の整備を行った。腸管における薬物動態試験への応用には、 ３次元オルガノイドの状態では汎用性が悪いため、単層膜化を行った。組織学的観察の結果、 作製したヒト腸管オルガノイド単層膜は極性とバリア機能を有した吸収上皮細胞からなる単 層膜であることが明らかとなった。また、ヒト腸管オルガノイド単層膜における CYP3A4 や CES2、MDR-1（P-gp）をはじめとする薬物代謝酵素やトランスポーターの遺伝子発現レベ ルはヒト成人十二指腸と同程度であり、生体に近い遺伝子発現プロファイルを示すことが明 らかとなった。さらに、非常に高い CYP3A4、CES2 等の酵素活性、および MDR-1（P-gp） の輸送活性を有することが判明した。これらのことから、ヒト腸管オルガノイド単層膜は従 来系と比較して薬物動態学的な応用に適していると考えられた。
本講演では、ヒト iPS 細胞由来腸管上皮細胞および生検由来ヒト腸管オルガノイドを用い た創薬研究への応用に向けた基盤技術開発について紹介したい。
【参考文献】
1) Negoro R., Takayama K., Kawai K., Harada K., Sakurai F., Hirata K., Mizuguchi H. Efficient generation of small intestinal epithelial-like cells from human iPS cells for drug absorption and metabolism studies. Stem Cell Rep., 11, 1539-1550 (2018)
2) Takayama K., Negoro R., Yamashita T., Kawai K, Ichikawa M, Mori T, Nakatsu N, Harada K, Ito S, Yamada H, Yamaura Y, Hirata K, Ishida S, Mizuguchi H. Generation of human iPS cell-derived intestinal epithelial cell monolayers by CDX2 transduction. Cell. Mol. Gastroenterol. Hepatol., 8, 513-526 (2019)
3) Kawai K., Negoro R., Ichikawa M., Yamashita T., Deguchi S., Harada K., Hirata K., Takayama K., Mizuguchi H. Establishment of SLC15A1/PEPT1-knockout human induced pluripotent stem cell line for intestinal drug absorption studies. Mol. Ther. Methods. Clin. Dev., 17, 49-57 (2019)
4) Ichikawa M., Negoro R., Kawai K., Yamashita T., Takayama K., Mizuguchi H. Vinblastine treatment enhances the intestinal functions and decreases the undifferentiated cell contamination of human iPS cell-derived intestinal epithelial- like cells. Mol. Ther. Methods. Clin. Dev., 20, 463-472 (2021)