平成27年度から令和元年度において医薬品医療機器総合機構で集計された、副作用による健康被害6,472件の器官別大分類別の内訳では、皮膚及び皮下組織障害が第一位であった (2,464件)。その中の約20%を占める重症薬疹であるスティーブンス・ジョンソン症候群 (SJS) 及び中毒性表皮壊死症 (TEN) の致死率はそれぞれ約5%及び30%という報告があり、極めて予後が悪い。全ての医薬品は薬疹を起こす可能性があり、治療開始前に薬疹の発症リスクを予測することは重要な課題である。ヒト白血球抗原 (human leukocyte antigen:HLA) は、当初は白血球の血液型として見出されたが、現在では白血球以外の全身の細胞においても存在し、ヒトの免疫にかかわる重要な分子である組織適合性抗原であることが知られている。HLAは数多くの遺伝子で構成されており、それぞれの遺伝子が数十種類の異なるタイプ (アリル) を有しているため、遺伝子の組み合わせ (ハプロタイプ) は数万種類とも言われている。薬疹は薬物アレルギーに基づく副作用であることから、以前よりHLAとの関連解析が行われてきており、薬疹発症リスクと関連する多くのHLAアリルが報告されている。
一方、米国の医薬品添付文書に記載されている生殖細胞系列のファーマコゲノミクス・バイオマーカー269種類において、薬物代謝酵素及び薬物トランスポーターが50%以上を占めていることからも示されるように、ゲノム情報に基づくprecision medicineの実現においては、薬物動態関連分子の遺伝子多型を評価することが重要である。演者らは、次世代シークエンサーを用い、60種類の薬物代謝酵素、37種類の薬物トランスポーターを含む薬物動態関連100遺伝子をターゲットとした網羅的ターゲット・リシークエンス解析パネルを開発した。実際には、ターゲット領域の増幅を実施する1stPCR、そのPCR産物にアダプター配列を付加する2ndPCRの2反応によって得られたライブラリーを、イルミナ社のMiSeqでシークエンシング (2×250 bp) することにより、100遺伝子の翻訳領域上のすべての変異を同定するものである。本解析パネルは、薬物動態関連遺伝子の網羅的な変異探索を可能とするのみならず、全ゲノムシークエンシング (WGS) や全エクソームシークエンシング (WES) よりもコスト、時間及び解析負荷を低減することができる。すなわち、ゲノムDNAサンプルを採取する臨床研究や治験において、薬効の変動や有害事象の発現の原因となる遺伝子多型やレアバリアントの探索研究に適用可能な強力なツールとなることが期待される。