近年、シングルセルを20~100μmという小さな器に入れて、溶解・反応などをさせるツールを使用した装置が研究分野においても活躍し始めている。そのツールとは、Water-in-Oil(W/O)ドロップレットのことである。このW/Oドロップレットは、まわりがオイルで中が水溶液のもので、その境界に界面活性剤が存在することで安定している。その現象は言い換えれば乳化(emulsification)であり、乳液(emulsion)のことである。主な例を上げると、バターやマーガリンはW/O型で、マヨネーズや生クリームはその逆のO/W型である。本日は、W/Oドロップレットおよびその延長線上で作製可能なゲルマイクロドロップ(GMD)の話を中心とするが、いずれもバターやマーガリンのイメージとは異なり、液体状で扱いやすい応用例となる。ではそのW/Oドロップレットをどうやって研究に生かすのか?このことは我々が考えなくてはならない課題となっている。W/Oドロップレットの一番大きな特徴は、直径35μmのドロップレットで約22pL、直径100μmで524pLという極小な体積の空間に水溶液閉じ込めることができ、それぞれが器となることである。既に装置として知られている例は、Droplet Digital PCR(ddPCR):1ドロップレット/1DNA断片となるようにプライマー・プローブ等と一緒に封入してPCRをかけ、陽性・陰性ドロップレット数でその割合を解析し、PCR検出感度向上に貢献した製品や細胞と一緒にバーコード付きのビーズを封入して次世代シークエンス(NGS)の前処理として使用し、シングルセル発現解析などを容易にすることに貢献した製品が展開されている。これらに共通する技術は、マイクロ流路を使用していることがあげられる。W/Oドロップレットは、極端なことを言ってしまえば、水溶液と油と界面活性剤をボトルに入れて激しく振れば作製できてしまう。しかしながら、この作製方法では研究用途で使用するにはハードルが高い。なぜなら、作製されるドロップレットのサイズは、大きいものから小さなものまで様々となるからである。これでは1ドロップレットに1細胞封入することは難しい。その解決策として、マイクロ流路を使用することで均一なドロップレットを作製することができる。我々は、極小空間にシングルセルを閉じ込め分泌物をも封じ込めるW/Oドロップレットの可能性と正確なサイズのW/Oドロップレットを作製するマイクロ流路技術に注目して、シングルセルが分泌する物質を指標にスクリーニングすることができないか検討した。まず始めに大腸菌をターゲットとしてドロップレットへの封入・ターゲットの分取・シングル化のProof of Conceptを確認した。その次に、有用微生物単離の可能性追求、最後に、抗体産生細胞単離の可能性追求と進めた。我々は今回、これら詳細をお話しすると共に、W/Oドロップレットの理解と利用発展のための起爆剤となれば良いと考えている。