(目的)がん微小環境は主としてがん細胞、がん関連線維芽細胞、細胞外マトリクス、腫瘍血管で構成され、さらに免疫細胞などが浸潤している。がん微小環境はがんの生存・増殖はもちろん、薬剤耐性にも関与するため、がんの病理を理解し、さらに治療法を開発するために、がん微小環境のin vitroモデル系の開発が盛んに行われている。しかしながらその開発は未だ途上であり、特に腫瘍血管を具えたヒトがん微小環境モデル系は確立されておらず、このことががん研究及び抗がん剤試験における大きな障害となっている。そこで本研究では、灌流可能な主血管と毛細血管を具えた3次元の腫瘍デバイスの開発に取り組み、抗がん剤の薬効評価への応用を目指した。
(方法)多様な組織を安定的に把持する機構を有する灌流デバイスを使用し、大腸がん細胞株、血管内皮細胞、コラーゲンゲルからなる3次元腫瘍組織に灌流可能な主血管を構築した。さらに主血管に培養液を灌流することによって血管内皮細胞による血管新生を促進し、毛細血管網を形成した。このようにして作製した組織に抗がん剤Doxorubicinを投与し、画像処理を援用して組織中のがん細胞数の減少を測定した。
(結果)3種の大腸がん細胞株を用いて組織構築を行ったところ、いずれの株においても灌流可能な主血管及び毛細血管網を形成することに成功した。また、Doxorubicinを投与したところ濃度依存的ながん細胞の減少の測定に成功した。
(結論)これらの結果から、本研究のデバイスが種々のがん細胞に利用可能であることが示唆された。また、抗がん剤の薬効評価への利用可能性が示されたと考える。抗がん剤の開発や個別化医療などへの利用が期待できる。今後は高分子抗がん剤や抗体医薬品、T細胞を用いた治療法の評価を目指す。