【目的】本学が開発したハイブリッドリポソーム(HL)は、ベシクル分子とミセル分子を超音波処理するだけで調製できるナノ粒子で、がん細胞膜の物理化学的性質をターゲットとしてアポトーシスを起こす新しいメカニズムの制がん剤である。細胞移植治療では、細胞培養の過程で混在した造腫瘍性細胞が、細胞移植後に生体内で腫瘍を形成するリスクとなり得るため、製造過程で排除されることが求められている。本研究では、正常ヒト胎児肝細胞(Hc細胞)と肝がん細胞(HuH-7細胞)を共培養し、正常細胞中に混在する造腫瘍性細胞をHLにより選択的に排除することを目的とした。
【方法】Hc細胞とHuH-7細胞の細胞増殖曲線を作成し、共培養に適当な培地を検討した。また、それぞれHLに対する細胞増殖抑制試験を行い、HLの50%細胞増殖抑制濃度(IC50値)を算出した。次に、HuH-7細胞をCellTrackerTM Green CMFDA(Trermo)を用いて細胞を標識し、Hc細胞に対するHuH-7細胞の含有率を0, 25, 50, 75, 100%になるように播種した。その後、HL処理によるHuH-7細胞の選択的排除について、共焦点レーザー顕微鏡観察およびフローサイトメトリー(FCM)解析を用いて評価した。
【結果】CSC培地およびDMEMを用いた培地検討では、Hc細胞はCSC培地では高い増殖能を示したのに対し、DMEMでは増殖能を示さなかった。一方、HuH-7細胞は、CSC培地およびDMEMの両培地で高い増殖能を示し、共培養にはCSC培地が適当であることが示された。HLの細胞増殖抑制試験では、Hc細胞のIC50値は926 µM、HuH-7細胞のIC50値は325 µMを示し、HuH-7細胞に対するHLの作用効果はHc細胞と比較して有意に高いことが示唆された。また、Hc細胞と細胞色素標識したHuH-7細胞の共培養状態に対するHLの作用効果を共焦点レーザー顕微鏡観察およびFCM解析した結果、HLは濃度依存的にHuH-7細胞の割合を低下させることが示され、HLはHuH-7細胞に選択的排除効果を持つことが示された。
【結論】HLは正常細胞と造腫瘍性細胞が混在した状態において、正常細胞を残存させながら造腫瘍性細胞を選択的に排除する可能性が示された。