【目的】骨に大きな骨欠損が生じた場合、自己修復が困難であるため、一般的に自家骨移植が行われる。しかし、採取できる骨量に限界があるなど問題点も多いため、再生医療学的アプローチが求められている。その中で、生体適合性材料であるハイドロキシアパタイト(HAp)やβ-リン酸三カルシウム(β-TCP)を用いた人工骨研究が多く行われている。しかし、生体内へ移植を行う人工培養骨は、骨組織を形成する細胞や骨基質成分に配向性を持たせることが困難である。そこで本研究では、HApとβ-TCPを単独ではなく組み合わせることで、より高機能な人工培養骨を作製することを目的とした。特に、バイオセラミックス培養担体の力学的評価や、その作製条件が骨芽細胞の増殖や骨分化誘導、細胞や骨基質の配向性に与える影響について検討を行った。
【方法】組成HAp: β-TCP=1:0.75, 1:1.5、プレス圧力10 kN, 20 kN、焼結温度1200℃, 1300℃を組み合わせた4つの条件で作製した培養担体上にMG-63を6.4×103 cells/cm2で播種し、4日後に分化誘導剤添加及び無添加MEM培地を用いて28日間分化誘導培養を行った。培養担体及び分化誘導剤が、細胞増殖・細胞形態・骨形成マーカー発現に与える影響を走査型電子顕微鏡(SEM)及びエネルギー分散型X線分光法(EDS)等により評価し、ヤング率と圧縮破断応力の測定は、力学試験機を用いて行った。
【結果】免疫染色の結果より、HAp : β-TCP=1 : 1.5、プレス圧力20kN、焼結温度1200℃の条件で作製した担体上で、骨形成マーカーであるⅠ型コラーゲンとオステオカルシンが顕著に発現し、Ⅰ型コラーゲンは繊維状に伸展していることが示された。また、同試料のSEM観察では、細胞層間に細胞から伸びた柱状構造物が確認された。この柱状構造物の組成をEDSで分析した結果、P・O・Caの各元素が検出され、生体骨のものと類似していた。また、上記担体のヤング率と圧縮破断応力は、生体骨に近い値を示した。
【結論】骨芽細胞から骨細胞への良好な分化誘導の場を与え、かつ十分な強度を有する人工骨培養用担体の最適作製条件は、HAp: β-TCP=1:1.5、プレス圧力20 kN、焼結温度1200℃であることが分かった。