【目的】
 薬物性肝障害(Drug-induced liver injury:DILI)は、医薬品の開発、販売中止の主な要因となっている。日本におけるDILIの原因の40%は、胆汁うっ滞または胆汁うっ滞と肝細胞障害の複合型である。このため医薬品開発の初期段階で胆汁うっ滞を予測することが重要であり、in vitroにおける胆汁うっ滞評価系の構築が求められている。胆汁うっ滞予測には、胆汁排泄能を有する毛細胆管ネットワークが必要であるが、ヒト凍結肝細胞では伸長した機能的な毛細胆管を十分に形成させることが難しかった。加えて、ヒト凍結肝細胞は同一ドナーの細胞の供給が限られるため、ヒト凍結肝細胞を胆汁うっ滞予測に用いるにはドナーの異なる細胞でも再現性良く伸長した機能的な毛細胆管が形成可能な培養方法が求められる。我々は、ヒト凍結肝細胞で伸長した機能的な毛細胆管を形成するための培養方法を構築した。本研究では同培養方法により異なるロットの細胞においても伸長した機能的な毛細胆管が形成可能かを検討した。また、薬物の毒性は薬物代謝に依存するため、毛細胆管形成時の薬物代謝酵素の遺伝子発現についても検討した。
【実験方法】
 これまでに構築した培養方法を用いて4ロットのXenotech社ヒト凍結肝細胞で毛細胆管を形成させ、胆汁排泄トランスポーターの免疫染色、MRP2蛍光基質(CDFDA)とBSEP蛍光基質(Tauro-nor-THCA-24-DBD)の排泄を観察した。加えて、胆汁排泄トンラスポーターや薬物代謝酵素シトクロームP450(CYPs)の発現量を定量的PCRにより測定した。
【実験結果】
 免疫染色の結果、何れのロットにおいても培養面全体に伸長した毛細胆管が観察された。蛍光基質の排泄評価では、MRP2やBSEPの基質が毛細胆管に排泄され蓄積されることが確認された。加えて、何れのロットにおいても胆汁排泄トランスポーターの発現はヒト肝臓と同等以上であり、CYPsの発現はベンダー指定の培養条件下と同程度以上であった。以上のことから、毛細胆管形成時の胆汁排泄関連トランスポーターや薬物代謝酵素の遺伝子発現は胆汁うっ滞予測ために十分であると考えられる。
【結論】
 我々が構築した培養方法によりロットの異なる細胞においても伸長した機能的な毛細胆管を形成できた。加えて、毛細胆管形成時に十分な薬物代謝遺伝子の発現が確認されたことから、薬部代謝を反映した胆汁うっ滞予測が期待される。