【目的】Microphysiological Systems(MPS)は、培養液の灌流や3次元細胞組織を利用することで、細胞を取り巻く微小環境や血流などの動的な環境を模倣することを目指した培養技術である。従来のin vitro試験と比べ、生体反応における再現性の向上が期待されている。本学術年会や他の同様のシンポジウムで、MPSの社会実装に向けて考慮すべき点について盛んに議論がされている。しかしながら、社会実装のために検討しなければならない技術的課題については共通した見解は提出されていない。本発表では、崇城大学が中心となり取り組んでいる、MPSの社会実装に向けた技術的課題に対する試験の例を示す。
 MPSの培養器は、製造や加工の観点からシクロオレフィンポリマー(COP)やポリジメチルシロキサン(PDMS)が素材として使用されるようになり、素材間での細胞の接着性の違いが問題として挙げられる。培養器への細胞接着性、培養器材へのコーティングによる細胞接着性を具体的な評価事例として取り上げ、技術要件としての適格性を議論する。
【方法】COP、ポリスチレン(PS)を素材とした培養器にコラーゲンコート(Corning®コラーゲンⅠ、ラット尾)を施したものとノーコーティングのものを用意し、HepG2細胞を1.0×104 cells/cm2で播種した。1時間、2時間、3時間、4時間、6時間、24時間をタイムポイントとし、位相差顕微鏡にて観察を行った。観察後、電動ピペッターを用いて接着していない細胞を一定の力でPBS(-)にて洗い流し、再度観察を行った。その後、培養器に残った細胞をTrypsin処理により回収し、細胞を-70度以下で凍結させた。凍結させた細胞を融解し、CyQUANT TM Cell Proliferation Assay(InvitrogenTM)を用いて細胞数の算出を行った。
【結果】PS製の培養器では、徐々に接着している細胞が増えていく様子を確認することができた。しかし、COP製の培養器に播種した細胞は、2時間ではほとんど接着しておらず、3時間を過ぎて、細胞が接着し始めることが示された。また、同じ素材の培養器であっても、コーティング、滅菌方法の違いにより、細胞の形態、接着性が異なることが示唆された。
【結論】培養器の素材、コーティングによって、細胞の形態、接着性が異なることが示され、細胞-材質ごとに接着、単層形成までの時間設定が必要であることが示唆された。