(目的)
スフェロイドを始めとする3次元的な細胞集塊を用いた薬剤の評価系は,従来の平面的な細胞培養系と比較して,生体の応答をより高度に再現することができる。そのため,創薬研究における薬剤評価のツールとして,スフェロイドが注目されてきた。近年,サイズを制御したスフェロイドを形成する手法として,微小なチャンバーを用いた手法が多数報告されている。しかしながら,チャンバー底部への培地供給が不足するという課題があった。
本研究では,多孔性材料を用いて微小なチャンバーを形成し,流路と統合することで,チャンバーの上下方向に培地を流通可能なシステムを開発した。このシステムを用いてかん流培養を行うと,チャンバー内で停滞することなく培地を送液することができる。本システムを用い,肝細胞(HepG2細胞)スフェロイドのかん流培養を行い,生化学的評価を行うことで,本システムの有用性を検証することを目的とした。
(方法)
多孔性チャンバーを作製するために,まず直径200 µm,高さ300 µmの凸型構造が配列した鋳型に対して,NaCl粒子を混合したPDMSプレポリマーを塗布した。プレポリマーを架橋し,鋳型から剥離することでチャンバーの配列構造をもつ基板を作製した。作製した基板を水に浸漬しNaCl粒子を溶出させ,多孔性チャンバーを得た。この基板をマイクロ流路と統合して細胞培養システムを形成した。HepG2細胞をチャンバーに導入し,7日間のかん流培養を行った。培養後にスフェロイドを回収し,細胞の生存率・増殖率評価および肝細胞に特異的な遺伝子発現量の定量評価を行った。
(結果)
デバイスにHepG2細胞を導入し,かん流培養を行ったところ,径の均一なスフェロイドを多数形成することができた。培養7日目においてスフェロイド内の細胞は高い生存率(95%以上)を維持していた。また,RT-qPCR法により遺伝子発現量の定量評価を行ったところ,多孔性チャンバーを用いて培養した細胞は,肝細胞に特異的な遺伝子発現量が増加することが確認された。
(結論)
本研究では,チャンバー底部における細胞に培地を効率的に供給できるフロースルー多孔性チャンバーを統合したかん流培養系を提案した。本システムを用いることで,細胞の生存率が維持され,さらに肝細胞に特異的に発現する遺伝子の発現量が向上することが示された。