【目的】医薬品の研究開発において、候補化合物の有効性や安全性を確認するため、ヒトにおける体内動態をin vitro/in vivoにて評価することが重要である。薬物の体内からの排泄は、薬理作用や副作用の発現に大きく影響し、特に脂溶性薬物において胆汁中への排泄は主要な薬物消失経路の一つである。本研究では、胆汁うっ滞型薬物肝障害を評価できる実験系の構築を目指し、高純度シリカファイバーからなる三次元培養担体CellbedTMを用いて、肝がん由来細胞株であるPLC/PRF/5細胞の三次元培養を行い、肝臓における薬物動態評価系構築について検討を行った。
【方法】ヒト肝細胞のモデル細胞としてPLC/PRF/5細胞をCellbed(日本バイリーン社製)に播種し、7日間培養した。その後、単層培養を行った細胞を対照として、胆汁酸輸送トランスポーターであるNTCPとBSEPの免疫組織染色を行い、発現検討を行った。次に、胆汁酸と同じ動態を示す蛍光モデル化合物であるTauro-nor-THCA-24DBDを用いてNTCP、BSEPの機能検討を行った。また、BSEPの排出活性の特異性を検討するため、BSEP阻害剤Cyclosporine Aを用いた阻害試験を行った。最後に、BSEPのさらなる発現亢進を期待し、新規培養条件による長期培養を行った。
【結果】PLC/PRF/5細胞を用いたCellbed培養条件ではmonolayer培養条件に比べ、NTCPとBSEPの発現の亢進が観察できた。また、胆汁モデル化合物であるTauro-nor-THCA-24DBDを使用した検討では、細胞内への取り込みによりNTCPの機能が、細胞外への排泄によりBSEPが機能している可能性が示唆された。さらに新規培養条件として長期の培養を試みると、培養期間に従い経時的に細胞層BSEPの発現向上と細胞層の片側に偏在している事が確認できた。この観察結果は細胞の積層方向に細胞極性が形成されている可能性を示唆している。
【結論】Cellbedを用いてPLC/PRF/5細胞を三次元で長期に培養をすることで、BSEPが細胞層の片側に偏在し、細胞極性が形成される可能性が示唆された。これにより、新規培養法を活用することで、細胞層を膜とした胆汁の取り込みと排泄評価系の構築につながることが期待できる。