【目的】 マイクロ流路内に形成した3次元的な毛細血管網のモデルは,創薬における細胞ベースアッセイや細胞生物学研究において極めて有用である。これまでに,血管内皮細胞(EC)が有する「自発的な管腔形成能力」を利用することで,連通した毛細血管網モデルをハイドロゲルの内部に形成する手法が報告されてきた。しかし既存の手法には,毛細血管網の形成に1~2週間程度の長期培養が必要であること,形成される毛細血管網の太さと密度の制御が困難であること,などの課題があった。そこで本研究では,溶解性の「断片化マイクロファイバー(FMF)」を犠牲材料として用い,マイクロ流路内に毛細血管網モデルを「迅速かつ精密に」形成する手法を開発することを目的とした。
【方法】 ECを懸濁させたアルギン酸Na水溶液を,微小ノズルを用いてゲル化剤水溶液に押し出してゲル化し,さらに攪拌によって剪断力を加えることで,犠牲材料となる断片化マイクロファイバー(FMF)を得た。毛細血管モデルを形成する主流路,溶液導入のための横流路,それらを隔てるマイクロピラーを有するマイクロ流路を設計し,フォトリソグラフィーおよびモールディングによって作製した。線維芽細胞を懸濁したフィブリノゲン水溶液に,ECを内包したFMFおよびトロンビンを添加・混合し、主流路に導入した。フィブリンゲルを形成した後に,横流路からEDTA水溶液を導入してFMFを溶解し,その後灌流培養を行った。
【結果】 FMFの作製において,溶液の粘度,添加剤の有無,攪拌条件などを検討し,平均断片長0.5-2 mm程度,直径10-30 μm程度のFMFを得ることができた。マイクロピラー間の距離が30-50 μmである流路を用いることで,ハイドロゲルの前駆体水溶液の漏出を抑制し,最終的にFMFを溶解することで管腔構造を有するフィブリンゲルを形成できた。灌流培養を行ったところ,2日目には管腔構造に沿ってECが増殖する様子が観察された。さらに,青色蛍光微粒子の懸濁液を導入したところ,流路全体に行き渡ったことを確認し,連通した毛細血管網を迅速に形成できた。
【結論】 本研究で提案した手法は,連通した毛細血管網を迅速かつ精密に形成可能であるため,血管のバリア機能や薬物応答などを再現する実験系に適用可能であると期待される。