【目的】うつ病治療の中心は、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)等の抗うつ薬による薬物療法であるが、その血中薬物濃度や効果に大きな個人差が存在し、その治療反応性の予測が困難である。本研究では、パロキセチン(PAX)の治療効果に影響する各患者因子との関係性を検討することを目的に、薬物動態(PK)―薬力学(PD)連関に着目したモデル構築を試みた。【方法】PAX服用歴のあるうつ病患者179名(年齢:41.5 ± 14.2歳)を対象に、投与開始後から6週目まで一週間間隔で血中PAX濃度を測定し、過去の我々の母集団PK解析結果を一部改良して、各患者のPKパラメータを推定した。次に、PK解析の対象者のうち、効果の指標であるMontogomery-Asberg Depression Scale(MADRS)のデータが得られた86名(年齢:46.3 ± 13.3歳)を対象に、機械学習アルゴリズムである決定木、並びに、非線形混合効果(NLME)モデルにより、各患者の治療反応性を予測するモデルを構築して、予測性能を比較した。共変量には、算出した各患者のPKパラメータ、PAX投与量、年齢、クロニンジャーの気質性格(TCI)、遺伝子型などの各患者因子を用いた。【結果・考察】決定木モデルでは、PAX投与2週後のMADRS、年齢、体重、日照時間およびPAX投与1週後の血中濃度により、PAX投与4週後の治療効果の有無で患者を分類できた。一方、NLMEモデルでは、Emaxモデルが採用された。各時点での血中PAX濃度はモデルに組み込まれなかったため、PAXの効果発現が遅延することを考慮し、投与開始時点からの血中PAX濃度の血中濃度―時間曲線下面積の累積値を総曝露量として検討したところ、PAX投与1週後の総曝露量およびTCIの自己志向性が最大の改善率に、PAX投与1週後のMADRSおよび4週後の総曝露量が最大改善率の50%を得る投与期間に影響した。NLMEモデルに対する妥当性と予測性はいずれも良好であり、決定木による予測性能を上回った。本研究では、血中PAX濃度から総曝露量を算出することで、PAX投与直後から効果発現までに経時的に生じる様々な作用を表現できた可能性が示された。【結論】本研究では、PAXの投与開始時からの総曝露量が治療効果の有無と関係することを初めて明らかにした。本研究結果は、PAX服用後早期に治療反応性を予測することで、個々に最適な投与設計や治療薬選択が可能になることを示唆しており、うつ病患者における治療の最適化とQOLの向上に繋がると期待する。