【目的】遺伝子治療では様々な難治性疾患に対して顕著な有効性が示されており、治療後には安全性等を考慮して年単位のフォローアップが推奨される。フォローアップを適切に行うためには日常の健康状態や他院の受診歴等に関する情報が必要となることから遺伝子治療後の適切なフォローアップを支援することを目的とした観察票を開発し、モバイルアプリ(3H P-guardian、以下「アプリ」)に導入し運用開始した。本調査では遺伝子治療後のフォローアップにおけるアプリの有用性を評価した。【方法】本調査はオナセムノゲン アベパルボベクの遺伝子治療を受けた脊髄性筋萎縮症患者とその保護者を対象に行った。遺伝子治療後のフォローアップの観察票は関連ガイドラインをもとに項目を設定し、さらに発達・成長、予防接種に関する観察項目を加えて作成した。観察票は対象者のアプリに定期的に配信された。アプリには医療関係者に情報共有するメモ機能、医療機関から各患者のアプリに情報提供できる機能も搭載されている。アプリの有用性はフォローアップへの貢献度や満足度、継続利用希望等の意見をもとに評価し、アプリ自体の使用感はSystem Usability Scaleを用いて評価した。【結果】これまでに4名の参加同意が得られ、そのうち3名が使用後90日目以降の回答を終えた。3名全てで体調の改善が認められ、2名の児では感情面や他の子との関係性についても改善が認められた。遺伝子治療の有害事象に関する回答はなかった。3名全てで90日以降の継続利用を希望し2名が「満足した」と回答した。アプリの使用感は2名が「Excellent」、1名が「Good」という結果であった。2名は成長や日常生活の記録に「役立った」と回答し、1名は体調管理の記録や医療者とのコミュニケーションで「役立った」と回答した。【考察】遺伝子治療は身体機能だけではなく児の感情や社会的な発達の改善にも寄与する可能性がある。これまで対象者における遺伝子治療関連の有害事象の報告はなかったが、長期的な安全性評価には追跡調査が必要であり、アプリは追跡調査に有用なツールの一つであると考えられる。ただし長期フォローアップのためには継続的な利用が望まれることから引き続き有用性の評価を行い対象者や医療者の意見をもとにアプリの仕様を検討していく。