【目的】
消化性潰瘍に代表される消化管傷害は医薬品の代表的な副作用であり、入院や死亡につながる合併症を引き起こす可能性があるため、医薬品のリスク管理を行い、適正使用を推進する必要がある。遅発性の有害事象は、医療従事者による把握がし難く、その発見が遅れ患者のQOLの低下につながるため、発症時期を踏まえたリスク評価が重要である。そこで本研究では、上部および下部消化管傷害と医薬品の関連性や発現時期を把握し、発現部位ごとに遅発性のリスク薬を明らかにすることを目的とした。
【方法】
FDA(米国食品医薬品局)が公表する2012年10月から2022年6月までの有害事象自発報告データベース(FAERS)を用いて、データクリーニングの後、解析を行った。消化管傷害の定義は、ICH国際医学用語集(MedDRA)ver.24.1のMedDRA標準検索式「消化管の非特異的炎症」、「消化管の潰瘍」、「消化管の穿孔」に含まれる有害事象とし、FAERSに報告された全薬剤を対象に報告オッズ比(ROR)を算出した。加えて、上部・下部消化管傷害のRORおよび発現までの日数の中央値を算出し、発現パターンに基づいた医薬品の評価を行った。
【結果・考察】
クリーニング後のデータセット(7,305,175人)のうち、消化管傷害の発現人数は74,826人(上部:27,745人、下部:35,827人)であった。RORを算出した結果、消化管傷害のリスク薬として290剤が検出された。さらに、下部消化管傷害に着目したところ、オルメサルタンでは発現までの日数が最も長く、RORも高値であった(中央値:158日、ROR:6.44)。そこで、他のアンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)5剤と比較したところ、他の5剤は有意な発症リスクを示さず、遅発性の下部消化管傷害はオルメサルタンに特徴的であることが明らかになった。近年、オルメサルタンの副作用としてスプルー様腸疾患がFDAから注意喚起されている。スプルー様腸疾患は重度の下痢を主症状とする他のARBでは見られない副作用であり、オルメサルタンを長期投与することで生じる。オルメサルタンに特有かつ遅発性である点が類似していることから、オルメサルタンによる下部消化管傷害にはスプルー様腸疾患が関連している可能性がある。
【結論】
本研究では、オルメサルタンによって遅発性の下部消化管傷害が発現することが明らかになった。また、医療機関データベースを用いた解析についても併せて報告する。