【背景】世界には約7,000の希少疾患が存在するが、その95%では未だ有効な治療薬が存在しない。これには低い疾患認知度、高い開発難易度・コスト、低い収益性及び薬事・医療制度など様々な要因が関連している。さらに、日本は海外承認薬が未開発・未承認というドラッグロスの問題に直面している。【目的・方法】希少疾患に対するドラッグロスを分析し、日本におけるシームレスな開発に寄与する因子を特定することを目的とした。2005~2021年に米国で承認されたオーファンドラッグ(OD)249品目の開発状況を分析し、ドラッグロスの傾向及び関連因子、希少疾患に対するR&D戦略を検討した。【結果・考察】2018年からの米国でのOD承認数の増加に伴い、国内未承認薬及び未開発薬が急増し、その数は120品目(49%)及び86品目(35%)に達している。これは欧州と比較しても顕著であり、更なるドラッグロスの拡大も予想される。米国では創薬エコシステムの成熟や開発委託サービスの進歩等を背景に、希少疾患のR&Dの主体が製薬企業からスタートアップに移行し、この変移がドラッグロスの拡大に有意に関連していた。米国承認済みODの約50%は欧米のスタートアップ又はアカデミアで創製され、2021年までにMAHの50%以上をスタートアップが占めた。R&D戦略は組織ごとに様々であり、スタートアップは主に自社創薬(54%)とインライセンス(46%)を組合せパイプラインを獲得し、先行して米国での開発を進めていた。一方、日本への拡大は自社で行うケースは少なく(27%)、米国での承認/申請後又は開発後期段階に日本企業(46%)や日本にプレゼンスを有するグローバル製薬企業(5%)へライセンス供与していた。このライセンス戦略には、薬剤の革新性、対象疾患、ライセンサーの取引能力及びライフサイクルマネジメントによる潜在的な市場拡大の可能性が有意に関連していた。欧米のスタートアップにとって日本は、相対的に低下する市場性や複雑な薬事規制、またスタートアップの財政的制約等により、必ずしも優先度の高い市場になっていないと考えられた。【結論】希少疾患治療薬のドラッグロスは急速に拡大しており、主因は米国での希少疾患のR&Dの主体がスタートアップへ遷移したことにあった。ドラッグロス是正のためには日本企業の海外スタートアップとの早期段階からのパートナーシップ、国内エコシステムの構築を通じた創薬力の強化が重要であることが示唆された。