【目的】無作為化比較試験の計画作成においては、一般に、対照群に比べた試験群の効果の大きさを見積もり、それに基づいて症例数が設定される。本研究では、検証的臨床試験の計画時に見積もられた効果の予測値と試験で得られた結果値を比較することにより効果予測の適切性について検討し、今後のより適切な試験計画の作成に向けた方策について考察することを目的とした。【方法】まず、承認取得のための検証的臨床試験を対象に予測値と結果値の比較を行った。2021年に承認された新有効成分含有医薬品から、申請資料に無作為化比較試験成績が含まれる品目を抽出した。次いで、申請資料や公表論文から各試験における計画時の効果の予測値及び結果値を収集した。各試験で用いられた主要評価項目の特徴から、 (1) 試験群と対照群の効果(有効率)の差、(2) 効果(単位のある測定値)の差、(3) 効果の比の3つに分けて、効果の予測値と結果値を比較した。次に、対象とする臨床試験を広げるため、主要な医学雑誌に掲載されたPhase 3の無作為化比較試験の論文をPubMedにて検索し、対象論文の試験データから計画時の効果の予測値及び結果値を収集し、同様に主要評価項目の特徴で分類した上で、予測値と結果値を比較した。【結果・考察】承認取得のための検証的臨床試験に関する分析では、対象とした24品目のうち、効果の差(又は比)の予測値<結果値が16品目、予測値>結果値が8品目であった。予測値<結果値の薬剤では結果値が予測値を大きく上回る傾向が見られた一方で、予測値>結果値の薬剤では結果値が予測値を下回る程度は小さい場合が多かった。また、医学雑誌に掲載された臨床試験に関する分析では、61試験が対象として抽出され、43試験で予測値<結果値、18試験で予測値>結果値という結果になった。【結論】検証的臨床試験では、計画作成時に試験群と対照群の効果の差を小さめに見積もる傾向があることが示された。予測値の根拠の強さが予測値と結果値の関係に影響するか否かなどについて、今後、分析と考察を行う予定である。効果の差を大きく見積もりすぎると、検出力が不足して統計学的な有意差を示せないおそれがある一方、必要以上に小さく見積もると、症例数が増加して試験にコストと時間がかかり、臨床的意義がないような効果の差を統計学的な有意差として検出してしまう可能性がある。適切な根拠に基づいて効果の予測を行うことが重要である。