【目的】本邦では高齢化に伴い高齢心不全患者数が増加しており、これら患者における心不全増悪の抑制の重要性が高まっている。アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬、アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)及びβ遮断薬は左室駆出率が低下した心不全(HFrEF)患者に対するガイドラインに基づく治療薬の主軸である。しかしガイドラインの根拠となった知見は若年の心不全患者から得られたものであり、高齢心不全患者に対して心不全治療薬の有用性は不明である。本研究では、心不全治療薬の有効性について年齢別に従来の解析に加えて機械学習解析を用いて検討を行った。
【方法】急性非代償性心不全患者を対象とし、高知県6つの基幹病院が参加する多施設共同前向きコホート研究(Kochi YOSACOI study)を実施した。調査項目は心不全治療薬(ACE/ ARB、β遮断薬)及び患者背景と全死亡(2年以内)との関連を検討した。心不全治療薬を含む生命予後に関連すると報告がある既存の因子を用いて、2年間の全死亡(2年以内)についてCox比例ハザードモデルにて評価した。また機械学習解析(勾配ブースティング決定木)を用いて、年齢との交互作用を検討した。さらに年齢との交互作用を認めた心不全治療薬について年齢別に層別化し、カプランマイヤー法にて検討を行った。
【結果・考察】急性非代償性心不全で入院した患者1,052名のうち314例のHFrEF患者を解析に組み入れた。このうち全死亡(2年以内)の患者は80人であった。Cox比例ハザードモデルにおける年齢の因子を含む多変量解析にて、ACE/ ARBは有意差を認めたが(HR: 0.529、95% CI: 0.310 ― 0.904)、β遮断薬では認められなかった(HR: 0.999、95% CI: 0.541 ― 1.844)。また機械学習解析により、年齢とβ遮断薬の間に相互作用が認められ、80歳を境界に全死亡の抑制効果が失われることが示唆された。さらにβ遮断薬について年齢別にカプランマイヤー法にて検討したところ、80歳未満の患者では有意差をもって全死亡を抑制するが(P < 0.001)、80歳以上の患者では有意差が認められない(P = 0.319)ことが明らかとなった。以上の結果から、心不全治療薬のうちβ遮断薬は年齢別に全死亡抑制の効果が異なる可能性が示唆された。
【結論】心不全治療薬のうちβ遮断薬は年齢別に全死亡抑制効果が異なることが示唆された。また機械学習解析により、その効果の違いは80歳を境界とすることが明らかとなった。