【目的】Cytochrome P450(CYP)3A4基質を被験薬とした臨床試験ではCYP3A4阻害剤及び誘導剤を併用禁止薬として設定する場合があるが,CYP3A4阻害剤及び誘導剤の休薬期間を被験薬の投与開始前何日間に設定すべきかは明確な基準が確立されていない。そこで本研究では,あるCYP3A4基質を用いた臨床試験について必要とされるCYP3A4阻害剤及び誘導剤の休薬期間を定量的に推定することを目的とした。
【方法】生理学的薬物速度論(PBPK)モデルを用いて種々のCYP3A4阻害剤及び誘導剤がCYP3A4の典型的な基質であるミダゾラムの薬物動態に与える影響と休薬期間の関係を評価した。PBPK解析にはSimcyp v21(Certara)を用いた。シミュレーションに用いる阻害剤については阻害機序,阻害強度,及び半減期に,誘導剤については誘導強度及び半減期に注目し複数のパターンを評価できるよう10個の薬剤(イトラコナゾール,ベラパミル,アミオダロン,クロファジミン,フルコナゾール,クラリスロマイシン,リトナビル,フェノバルビタール,リファンピシン,フェニトイン)を選択した。ミダゾラム単独投与時の薬物血中濃度時間曲線下面積(AUC)に対するCYP3A4阻害剤及び誘導剤休薬後にミダゾラムを投与した時のAUCの幾何平均比を算出し,この幾何平均比が0.8~1.25の範囲内となる期間をこれら薬剤の影響が十分に消失するために十分な休薬期間であるとみなした。
【結果・考察】今回検討した多くのCYP3A4阻害剤及び誘導剤については概ね8日程度,最大12日の休薬期間を設けることでその影響が十分に消失することが示唆された。12日以上の休薬期間が必要と推定された薬剤は長時間の半減期を有しており,半減期の長さにおおよそ比例して必要な休薬期間が長くなっていた。また,阻害様式がMechanism-Based Inhibitionの阻害剤,阻害活性を有する代謝物が生成する阻害剤,及び半減期が短い誘導剤の一部については必要な休薬期間が半減期の5倍より長くなり,阻害強度の弱い一部の薬剤については半減期の5倍より短くなった。
【結論】PBPK解析は各阻害剤・誘導剤投与中止後の基質の薬物動態に与える影響を定量的に評価し,休薬期間を合理的に決定するための有用なツールであると考えられる。