【目的】製薬企業各社の新薬の開発パイプラインは企業の規模(研究費、人的リソース)に基づく戦略、保持する技術・特許、国籍・所在地など企業自体の性質、時代とともに変化するシーズの流行、ターゲットとなる疾患の市場性など様々な背景の下で選定される。本研究では、近年の開発パイプライン選択に関する意思決定のメカニズム・特徴を企業のパイプライン構成の時系列変化の分析、競合企業間の比較等により明らかにする。
【方法】2020年の医療用医薬品の売上高上位18社を分析対象とした。新薬開発データベースであるPharmaprojectsを用いて、対象企業の1995-2022年の開発パイプラインのデータを収集した。各社のパイプライン構成の特徴、経時的な変化、企業間のパイプラインの差異等を可視化し、記述統計的な分析を行った。
【結果・考察】分析対象企業のパイプライン数の合計は1995年の937品目から増加し、2016年に1,586品まで増加したが、その後は減少傾向にあり、2022年は1,123品目であった。パイプラインに占める他社からのライセンス品目の割合は30%程度で横ばいであった。パイプラインの対象疾患のばらつきをハーフィンダール・ハーシュマン指数(HHI)を用いて分析したところ、全体としてより開発領域が腫瘍薬領域等に集中しつつあることが明らかになった。開発国別にみると、米国での開発が各企業において依然中心的な地位を占めているが、特に企業本社が米国にない企業において米国での開発が増加していた。日本で開発される新薬の割合は2000年代に落ち込んだもののその後は増加していた。中国で開発される新薬の割合は近年増加していたが(2022年で全体の14%)、日本や欧州諸国など他の主要国との相対的な比較では高い水準にはなかった。
【結論】一般的にグローバル企業は研究開発効率を高めるために疾患領域をより絞った開発を行うとする報告があり、今回観察した大手製薬企業の開発方針はその方向にあることが確かめられた。日本での開発数の変化は、従来の国内開発を軸とした開発様態から2000年代以降の新たなグローバル開発様態への産業界の適応を表すものと考えられた。