【目的】ミトコンドリアは多種多様な細胞活動および代謝反応を担うオルガネラであり、その起源はαプロテオバクテリアの細胞内共生とされる。自らのDNAおよび核DNAによりコードされるタンパク質が秩序をもって発現し、必要な基質が膜間腔、内膜、マトリックス各コンパートメントに効率よく輸送され十分量存在することでその機能は適切に発揮される。すなわち、他のオルガネラに見られないミトコンドリア独自の高度に発達した複雑な反応は、ミトコンドリアに局在する輸送担体の機能発現により制御される。これまで非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)モデルマウスの肝ミトコンドリアにおいて、酸素消費能および呼吸鎖複合体サブユニットの発現が上昇し、特定の肝毒性薬物に対して膜透過性遷移が強く誘発されることを見出した。本研究では、NAFLDの肝病態において生物学的応答性が変化したミトコンドリアのトランスポーター発現を解析した。
【方法】肥満2型糖尿病自然発症に関連した脂肪肝を呈するdbマウスをNAFLDモデルとして用いた。マウス肝臓から常法に従ってインタクトなミトコンドリアを単離し、プロテオーム解析を実施した。NAFLDの肝ミトコンドリアにおいて有意な変動が見られた分子を抽出してGene Ontologyを用いてトランスポーターの絞り込みを行った。
【結果・考察】NAFLD由来肝ミトコンドリアにおいて様々なトランスポーターの発現変動が明らかとなった。53種類のメンバーから構成され、その多くは内膜を介した物質透過を担うミトコンドリアトランスポーターSLC25ファミリーの中では、近年NAD+を取り込むことでミトコンドリアにおけるNAD+ホメオスタシス維持に中心的役割を果たすことが明らかとなったSLC25a51(Nature 2020, 588)、ジカルボン酸キャリアSLC25a10の上昇が見られた。それら輸送担体は、TCAサイクルのフラックス、呼吸鎖複合体I活性、サブユニット発現との関連性が知られており、これまで見出してきたNAFLDの肝ミトコンドリアの呼吸機能、複合体サブユニットの発現変化をよく説明できる知見であった。
【結論】肥満型NAFLDモデルマウスの呼吸機能、薬物感受性が上昇した肝ミトコンドリアにおいて、その分子機構解明につながるSLCトランスポーターの発現変動を明らかとした。