まずお断りをせねばなりません。実は、本シンポジウムの打診を受けた2023年9月下旬まで私は分散型臨床試験(DCT)という単語を聞いたことがありませんでした。そのため、DCTの本質について私は語ることができません。その一方で、私たちの研究室では、2010年代半ばより心血管代謝領域における、いわゆる医師主導による多施設共同薬剤介入ランダム化比較試験を複数実施してまいりました。そのいずれもが従来型の非分散型臨床試験であり、各参加医療機関での診察・投薬・検査で臨床試験が完結していました。これまで少なくとも私は循環器領域における薬剤介入試験ではそうしたスタイルが王道であり、そこから新たなエビデンスが創出されると信じ込んでいました。しかし、そのオペレーションの中には、試験に参加いただいた患者さんの通院や病院での長時間の検査による身体的拘束に加え、コロナ渦も相まって試験への参加登録の伸び悩み、参加施設毎の診療・試験体制の違いによる不均一性など、非分散型臨床試験の負の側面が多く存在していたであろうことも事実です。それでも、それらの課題はこの非分散型臨床試験を実践していく上で、やむを得ないことであると思い込み、場合によってはそれらに目をつぶったまま臨床試験の終点を目指していたのかもしれません。そのような自己の経験をもとに本講演では、世界的に新たなトレンドと目されている分散型臨床試験が我々の循環器領域で担ってほしい役割について、一人のトライアリストの立場から考えてみたいと思います。