マスタープロトコルは複数の仮説を評価することを目的に作成された包括的プロトコルであり、マスタープロトコルを用いた試験は、複数の疾患に対する単一の治療法や、 単一の疾患に対する複数の治療法を評価でき、その目的に応じてバスケット試験、アンブレラ試験、プラットフォーム試験に分類される。マスタープロトコルを用いた試験(マスタープロトコル試験)は、試験から得られる情報量を最大化することができ、また共通のインフラストラクチャをとおして効率的に試験を進めることもできるため、医薬品開発のスピードを上げることを可能とする。
例えば、COVID-19のようなパンデミックが発生した際にはマスタープロトコルを用いたプラットフォーム試験の実施が有用である。同時期に個別の治験を複数実施すると治験参加者や治験施設等のリソースの奪い合いが起こるため、開発対象となる薬剤が多い場合、複数の薬剤を単一のマスタープロトコルで評価することで薬剤開発全体の迅速性と効率性が高まる。実際、欧米諸国では複数の薬剤がプラットフォーム試験において有効性・安全性が検証され、薬事承認に至った。
近年、日本においてもマスタープロトコル試験に関する関心が高まっており、国立がん研究センター中央病院では希少がんを対象としたマスタープロトコル試験(MASTER KEY PROJECT)が開始され、国立国際医療研究センターが主導する国際感染症治療戦略イニチアチブ(GLIDE)では新興・再興感染症を対象としたアダプティブ・プラットフォーム試験実施に向けての準備が進行している。
一方で、このようなマスタープロトコルを用いた医薬品開発をする際には、デザイン上、あるいは統計的な留意点に注意する必要がある。FDA(米国食品医薬品局)は、2021年5月にCOVID-19、2022年3月にがん領域を対象としたのマスタープロトコル試験に関するガイダンスを発出している。EMA(欧州医薬品庁)においても、2022年5月にマスタープロトコルに関する質疑応答集を発出している。本発表では、特にプラットフォーム試験でマスタープロトコルを用いる際の統計学的な留意点について概説する。さらに、本年度よりAMED医薬品等規制調和・評価研究事業「国内マスタープロトコル試験の実施に関する規制的、統計的、実務的課題の検討とその適正利用のためのガイドライン作成」を検討する研究班が発足しており、その取り組みを紹介する。