分子標的薬剤や免疫チェックポイント阻害剤(ICI)の臨床導入によりがん治療の成績は飛躍的に向上した。分子標的薬剤はがんの増殖や転移に関する遺伝子変異やその産物を阻害することで、ICIはがんを攻撃する免疫細胞(リンパ球)を活性化することで抗腫瘍効果を示す。これらの薬剤は従来の殺細胞性抗がん剤より一般的に有害事象は軽微であるとされ、高齢者に対してさえも比較的安全に投与可能と考えられている。一方、高齢がん患者が近年増加傾向にある。比較的全身状態の良好な高齢者が増えていることと有害事象の軽微な薬剤の台頭により以前と比較してもより高齢がん患者が治療を受ける機会は圧倒的に増えている。しかしながら、全身状態が良好であっても高齢者は合併症を有していることが多く、75歳以上では4人に3人は合併症が有しているとされている。呼吸器疾患は慢性閉塞性肺疾患(COPD)や間質性肺炎、肺線維症、さらには結核をはじめとする呼吸器感染症と難治で致死率の高い病態、病因が多彩、多様であり、患者のQOLを損なう疾患が多く存在している。特に喫煙と関連する疾患も多くあり、また喫煙とがんの関連もあることからがん患者の併発疾患としても呼吸器合併症は頻度の高いものとなっている。中でも、間質性肺炎、肺線維症の存在は分子標的薬剤やICIの重要な有害事象である薬剤性の肺臓炎のリスクを高めることが知られており、今なお専門医の間で間質性肺炎合併例の治療選択が議論されている。また、COPDなどの慢性呼吸器疾患を有する症例は肺機能の低下のみならず心不全のリスク、PSの低下、ひいては悪液質の合併も引き起こし、ICIの薬物動態への影響も懸念される。一方でCOPD合併症例では腫瘍免疫環境がICIの効果が引き出しやすいものになっているともされ、より慎重な治療選択が必要となる。肺結核をはじめとする感染症はがん治療の実施において重要な合併症である。殺細胞性抗がん剤をはじめ抗腫瘍薬は一般的に宿主の免疫能を低下させることが知られており、感染症を悪化させることが懸念される。感染症に使う抗菌剤は腸内細菌を変化させ、ICIの効果減弱につながることも知られているし、抗結核薬は代謝酵素に影響を及ぼし薬物相互作用を誘導することも知られている。本シンポジウムでは、呼吸器合併法にフォーカスをあて、臨床薬理学的観点を踏まえつつ、がん治療への影響を概説する。