糖尿病はがん患者の約30%にみられる代表的な併存疾患の一つである。また、わが国の糖尿病患者の死因第1位はがんであり、2011~2020年の10年間の調査では死因の38.9%を占めるまでになった。高齢社会の進行とともに糖尿病を有するがん患者はますます増加することが見込まれる。さらに、多くの疫学調査から、糖尿病(おもに2型糖尿病)によって大腸がん、肝臓がん、膵臓がん、子宮体がんなどの罹患リスクが増加することも示されている。がんと糖尿病には共通の病因・病態も想定され、「腫瘍糖尿病学」(diabeto-oncology)という新たな研究・臨床領域として注目されている。
糖尿病を有する患者のがん治療においては、さまざまな局面で糖尿病・高血糖に対する配慮が必要となる。特にがん薬物療法においては、多くのレジメンに制吐薬としてデキサメタゾンが含まれており、治療中の血糖コントロール悪化は必至である。治療サイクルに合せて大幅な血糖値の変動が見られるため、積極的な強化インスリン療法の導入が必要となることも少なくない。一方、がん治療中は糖尿病患者にとって「毎日がシックデイ」といっても過言ではなく、食事量の変動や体調悪化に対する糖尿病内服薬やインスリンの調整が重要である(シックデイ・ルール)。がん治療薬の副作用についてはきめ細かい説明やケアがなされているが、ステロイド薬により血糖コントロールが悪化することやシックデイ・ルールについては果たして十分説明できているだろうか。
また、がん治療が新たに糖尿病を惹起することも少なくない。ステロイドは言うまでもなく、mTOR阻害薬やPI3K/Akt阻害薬など高血糖を誘発する薬剤は今後さらに増加すると思われる。がん悪液質治療薬のアナモレリンでも一部の症例で血糖上昇が見られる。免疫チェックポイント阻害薬による1型糖尿病の発症は、頻度は少ないもののoncological emergencyとして注意しなくてはならない。
本講演では、がん治療中の糖尿病管理について概説し、両疾患の治療両立を支える上で薬剤師が果たすべき大きな役割についていっしょに考えてみたい。