私は循環器内科医として社会人のキャリアをスタートしたが、その前の医学生の頃を思い出すと、今大学で薬理学を教えている学生達と同様、電気生理学は最も難解で愛せない領域であった。しかしその頃、つまり1980年代から今世紀初頭ごろまで、電気生理学は実は日本のお家芸で、多くの煌くような世界的スターたちが本学会でも多く活躍していた。時は経ち網羅的解析が主流となる中、ある意味究極のlow throughputの電気生理学にあえて挑む若者は減少した。風説によると、電気生理学はもう時代遅れだそうである。しかし薬理学では、ありとあらゆる知見や技術を動員して薬力学を研究せねばならず、興奮性細胞(のみではないが)の生理現象を取り扱う際に不可欠な電気生理学を、もう古くなったからと言って排除するわけにはいかない。1980年代に発明されたパッチクランプ法は、今なおイオンチャネルのベストな解析方法である。この手法が可能とした単一チャネル電流の測定は、世界で初めて単一蛋白質の挙動のリアルタイム解析を可能とした。そして、その挙動を蛋白質の異なるstate間の遷移として理解し、それを数学的に記述する方法を生み出した。また同時期に、本邦でイオンチャネルが初めてクローニングされ、20世紀末にその一つの豊饒な果実としてイオンチャネルの構造解明がなされた。これらにより、イオンチャネルの分野では他の分野に先駆けて、分子から細胞までのヒエラルキ全体を通して蛋白質の動態や機能を実態的かつ統一的に理解できるようになった。そしてこれを背景に、チャネル作動薬の研究が、オルソステリック調節やアロステリック調節の構造的基盤の理解を進めた。イオンチャネルの研究で得られたこれらの成果は、他の蛋白質の挙動の理解にも有用である。例えば私は今、新生児特異的なAT1アンジオテンシン受容体による心筋L型Ca2+チャネルの機能調節を研究しているが、GPCRとイオンチャネルの作動原理の共通性を常々感じる。L型Ca2+チャネルでは、単一の脱分極刺激に応答して、複数の異なる開閉様式のセット(モード)が出現し、これが時間依存的に入れ替わる(mode switching)。リン酸化や細胞内Ca2+は、これをアロステリック修飾してCa2+電流を調節する。AT1受容体も、アンジオテンシンIIという単一のオルソステリック刺激に対し、Gq/11、Gi/o、G12/13、βアレスチン1, 2など複数の信号変換器を活性化する。そしてリン酸化や共存蛋白質が、信号経路の優位性をアロステリック修飾する(signaling bias)。これはまさしく AT1受容体のmode switchingであり、蛋白質のconformation changeに起因している。そのアロステリック調節は、蛋白質に重層的な生理機能を与え、また疾患の原因となり、それゆえに重要な創薬ターゲットである。本講演では、私のこのような体験を紹介し、若い研究者に領域を選り好みせず電気生理学にも是非挑戦してもらえるよう、少しでもエンカレッジできればと考えている。