【目的】サルコペニアは、加齢により筋肉量の減少および筋力の低下が生じた病態であり、日常生活の基本的な動作への影響のみならず、転倒・骨折などリスク増加や介護の必要度上昇につながることが知られている。治療法として運動療法や食事療法が主に提唱されているが、関節機能障害、消化器官の機能不全など身体機能の低下などが原因となり、それらの治療法を用いることができる患者は限局される。そのため、新たな治療選択肢として薬物治療が期待されている。しかし、現在までにサルコペニアに対する有効性が確立している薬剤は存在しておらず、治療薬開発が喫緊の課題となっている。 そこで、本研究では、大規模有害事象データベース活用したドラッグリポジショニング手法により新規サルコペニア治療薬を探索した。【方法】WHOの有害事象報告データベースであるVigiBaseの1968年から2021年12月公開時点までのデータを解析した。はじめにこのデータベースに含まれるデキサメタゾン使用症例を抽出した。次に、デキサメタゾン使用症例における併用薬ごとに筋萎縮の報告頻度を比較した。筋萎縮は、MedDRAに準拠した分類である"HLT 10062913/筋力低下状態/Muscle weakness conditions"に含まれる14語を用いて定義した。報告頻度のオッズ比の95%信頼区間の上限が1未満の薬剤を、サルコペニアの治療薬候補として抽出した。次に、パスウェイ解析ソフトウェアであるIngenuity Pathway Analysis (IPA) を用いて、骨格筋のタンパク質代謝に影響をする薬剤を選別した。【結果・考察】解析した期間中にデキサメタゾンの使用症例は308427件あった。デキサメタゾンと併用した際に、筋萎縮の報告頻度を有意に減少させる薬剤として、選択的NK1受容体拮抗剤であるアプレピタントやH2受容体拮抗薬のラニチジンなどが含まれていた。これらの薬剤に関して、IPA解析をおこなった結果、抗ヒスタミン薬の一種がmTORシグナル経路を介して筋タンパク質分解を抑制する可能性が示唆された。【結論】大規模有害事象データベースを用いた解析により、既存承認薬の1つがサルコペニアの治療薬候補として見出された。