【目的】
バンコマイシン(VCM)による腎障害(VAN)は、高率に発症する重篤な有害事象である。標準的な予防法として薬物治療モニタリング (TDM)が用いられているが、TDMのみでは完全な抑制は困難であり、新規予防策の確立が必要である。本研究では、ビッグデータ解析より抽出した候補薬を基礎研究と臨床研究によって検証し、VANの予防薬の同定を試みた。
【方法】
VANに伴って発現が変動する遺伝子を逆転させる既存承認薬を、創薬データベースのLibrary of Integrated Network-based Cellular Signatures (LINCS)により検索した。また、併用によりVANの報告頻度を低下させる薬剤をFDA有害事象自発報告データベース(FAERS)により検索した。これらの2つのビッグデータ解析から、共通して抽出された薬剤を候補薬とした。次いで、VANモデルマウスに対する候補薬の影響を検討した。候補薬の薬効は、血清クレアチニン(SCr)および血中尿素窒素 (BUN)による腎機能評価、尿細管障害度スコアによる病理学的評価、caspase-3、Bax、Bcl-2のタンパク発現解析によるアポトーシスの評価を元に検討した。さらに、2006年1月~2019年3月の間に徳島大学病院においてVCMを使用した症例を対象に、傾向スコア解析を用いてVANに対する候補薬の有用性を評価した (倫理委員会承認済)。
【結果・考察】
LINCSおよびFAERSのいずれの解析においても、デキサメタゾンおよびプレドニゾロンが抽出された。これら2つのステロイドはいずれも、VANモデルマウスにおけるScr、BUNおよび尿細管障害度スコアをそれぞれ有意に改善した。同様に、cleaved caspase-3/ caspase-3、Bax/Bcl-2も、それぞれ有意に低下させた。VCM使用症例を用いて候補薬の臨床的有用性を検討した結果、候補薬の併用によりVANの発症率は有意に低下した。候補薬は、VCMの治療効果や薬物動態にも影響を与えなかった。以上、性質の異なる2種類のビッグデータ解析によって候補薬を抽出し、基礎研究と臨床研究による有効性の検証を行うことで、効率的な候補薬の同定を行うことができた。
【結論】
ステロイドは、VANの予防に有用である。