【目的】 臓器の線維化は、線維芽細胞の増殖により誘導され、臓器機能を低下させる。しかし、線維化疾患に対する現在の治療薬は、線維化の進行を遅らせられるものの、線維化した臓器を正常化できないことが問題となっている。そこで我々は、線維芽細胞を血管内皮細胞に転換する戦略で、臓器から線維芽細胞を取り除く治療法の開発を進めている。これまでに転写因子ETV2が線維芽細胞を血管内皮細胞に転換する活性を持つこと、またETV2がDNA脱メチル化酵素TET2と相互作用し機能することが示されている。そこで今回の研究では、ETV2とTET2を活用し、線維芽細胞を高効率に内皮細胞に転換する技術の開発を行った。【方法】TET2の脱メチル化触媒領域にDNA結合能を付与した融合体を作製した。これらの融合体を、アデノウイルスベクターを用いて線維芽細胞に導入し、DNA脱メチル化活性を評価した。また、融合体とETV2を線維芽細胞に導入し、内皮細胞マーカー(VE-cadherinなど)と線維芽細胞マーカーの発現をqPCRとFACSにより解析した。さらに、転換後の細胞が持つ内皮細胞の形質を、顕微鏡観察、免疫蛍光染色、Ac-LDL取り込みと管腔形成アッセイにより評価した。【結果・考察】DNA結合能を付与した複数のTET2の融合体を線維芽細胞に導入したところ、TET2と同等以上の効率で、内皮細胞特異的遺伝子のプロモーターが脱メチル化された。次に、融合体とETV2を線維芽細胞に共発現させたところ、内皮細胞マーカーの発現が、野生型TET2との共発現時より強く誘導された。さらに、細胞転換条件の最適化により、融合体とETV2の共発現により、内皮細胞マーカーの発現を内皮細胞と同レベルにまで増加させられること、また線維芽細胞マーカーの発現を抑制できることも示された。また、転換後の約90%の細胞がVE-cadherinを発現し、内皮細胞が持つアセチルLDL取り込み能や管腔形成能を有することが示された。【結論】 臓器を脱線維化するための基盤技術として、TET2融合体とETV2を用いて線維芽細胞を高効率に内皮細胞に転換する技術を構築できた。現在、本技術で転換した内皮細胞の形質が安定に維持されるか、また線維化疾患モデルマウスの臓器を脱線維化できるかについてさらに検討を進めている。