わが国の臨床研究デジタル・トランスフォーメーション(DX)は世界に大きく遅れ、この状態が続けば国際競争から脱落するのは時間の問題である。実際、コロナウィルス感染症が流行し始めた当時、世界の主要国では、迅速に多数の臨床試験が立ち上がり、人々の生命に直結する重要な成果が次々に公表された。一方、わが国で開始されたコロナウィルス関連の臨床試験はわずかであり、そこから発出された情報は極めて限定的であった。世界の主要国でそうした機動的対応を可能にした要因の1つが、直接的な接触なしに被験者を診察して臨床試験に組み入れ、試験薬等を処方し、そして効果と安全性を評価するやり方、すなわち、分散型臨床試験(Decentralized Clinical Trial; DCT)の仕組みであった。こうした仕組みは、電子カルテや、遠隔での説明・同意取得、試験薬の配送、オンライン診療等のプロセスと、それらとよく連携が図られたITシステムがあって初めて円滑に稼働する。しかしながら、わが国の産学において、DCTの運用体制とそれに必要なITシステムは整備の途に着いたところである。更に、治験で求められるSource Document Verificationの実施に際しては、製薬企業等のモニターが時間と交通費を使って旧態依然のままに医療機関を訪問し、そのリソース(CRC、電子カルテ端末、カルテ閲覧室、等)を費やしている現状がある。こうした状況下、わが国が臨床研究・臨床開発の国際舞台に残り続けるために臨床研究の合理化・効率化は不可欠であり、そのDX推進は待ったなしの課題と言ってよい。本講演では、全国立大学病院を対象とした実態調査の結果を提示しつつ、わが国における臨床研究DXの現状と課題を明らかにすることで、その改善・解決に向けた道筋を照らすことを試みる。