乳がんの薬物療法の開発は近年著しい。これまでの乳がんの薬物療法は主にホルモン療法、化学療法、抗HER2両方であったが、現在は様々な機序の薬剤が使用可能である。他がん種で先行して開発が進んでいた免疫チェックポイント阻害剤も、2019年、2021年には免疫チェックぽいと阻害剤併用化学療法がトリプルネガティブ乳がんの初回治療として承認された。免疫チェックポイント阻害剤には免疫関連有害事象と呼ばれる特有の有害事象があり、既存の薬剤とは異なった注意が必要である。特に劇症型心筋炎と呼ばれる有害事象は致死的であり、その管理には循環器内科との連携が不可欠である。さらに現在は多くの抗体医薬複合体が乳がんで開発されているが、その中でもHER2陽性ならびにHER2低発現の乳癌に対するトラスツズマブ・デルクステカンの承認のインパクトは大きい。無増悪生存期間だけでなく全生存期間の延長が期待できるこの薬剤は、もはや旧来のサブタイプによる分類の概念を破壊したと言える。このように乳がんの薬物療法が進化し、予後が改善することで新たな問題が生じてきた。すなわち有害事象のマネジメントである。循環器合併症では、古くはアンスラサイクリンによる心筋障害の予防、管理は非常に重要な課題である。欧米ではアンスラサイクリン心筋障害の予防薬としてデクスラゾキサンが承認され使用されているが、本邦では血管外漏出の際の皮膚障害の治療の適応症のみを有する。ベータ阻害剤は心筋障害の予防薬として期待されるが、国内外での用量が異なり海外の試験結果を単純には適用できない。トラスツズマブ心筋症も同様に管理の必要な新合併症の一つである。これらのがん薬物療法による有害事象の管理の成否は、がん治療の成否そのものを左右すると言っても過言ではない。循環器合併症については先般Onco-cardiologyガイドラインが発刊された。その中で乳がんに関連して、HER2陽性乳がんに対するトラスツズマブ、ペルツズマブの投与、あるいは心保護目的の心保護薬の投与、に関するCQが挙げられた。本シンポジウムでは乳がんの最新薬物療法を紹介するとともに、治療における腫瘍循環器連携の重要性についてガイドラインを交えながら議論する。