腫瘍循環器医が対応すべき心血管毒性の中で最も発症頻度が高くがん患者の予後に大きく影響を及ぼすものの一つにがん関連血栓症(CAT)があげられる。がんに認められる血栓形成にはがんの増殖・転移に伴う病態と共通のメカニズムが明らかとなっており、CATは組織因子に伴う凝固カスケードの活性化、白血球、血小板、血管内皮細胞などの複合的機序により病的血栓を形成する。そして、発症頻度は近年、がん治療関連血栓症が加わり急速に増加している。その中で、最も頻度の高い静脈血栓塞栓症(VTE)は全VTE症例の4分の1を占め、がん患者の4~8%に出現する。さらに、がん治療中の入院患者では20%程度の高頻度に認める。VTEに対する抗凝固療法は低分子量ヘパリン(LMWH)を標準治療薬(本邦では未分画ヘパリン)として、内服薬はビタミンK拮抗薬が古くから投与されてきた。しかしながら、直接経口抗凝固薬(DOAC)が開発されて以来、がん症例においてもその有用性が明らかとなり、VTEに対する診療ガイドラインは2022年ITAC-CME、2023年ASCO、NCCNにおいてアップデートされた。さらに2021年にASHで、2023年ESMOにおいてがん症例における血栓症に対する治療ガイドラインが新たにまとめられている。中でもITAC-CMEにより示されたがん関連静脈血栓症に対するガイドラインでは、COVID-19パンデミックへの対応も含めたアップデートがなされた。また本邦では未だ施行が困難である予防的血栓療法に関してもエビデンスが明らかとなり、CATに対するマネジメントは大きく進歩している。その一方で、がん診療の現場では血管新生阻害薬や免疫チェックポイント阻害薬、ホルモン療法など新しいがん治療における新たな機序による血栓症が出現しており腫瘍循環器医は新たな対応が迫られている。学術的な面では腫瘍循環器的見地からがん・血栓・動脈硬化領域におけるトランスレーショナルアプローチが進められている。造血幹細胞におけるクローン造血に関する遺伝子変異の検討から加齢に伴う血栓・動脈硬化性変化の検討、がんと動脈硬化における共通のプロモーターが明らかになっており、学際領域の検討から循環器疾患全体にわたる幅広い見地からの新たな議論が始まっている。