遺伝性腫瘍診療では、生殖細胞系列遺伝子を一度に多数解析できる多遺伝子パネル検査(multi-gene panel testing; MGPT)が、遺伝学的検査の国際標準と認識されてきている。遺伝性腫瘍診療でのMGPTでは、30~80個程度の遺伝子を解析するパネル検査が実地臨床で使用されている。単一遺伝子の遺伝学的検査(Single-gene testing; SGT)が特定の遺伝性腫瘍の診断を目的とするのに対し、MGPTでは複数の遺伝性腫瘍症候群の鑑別が同時に可能である。MGPTは、遺伝性腫瘍を疑う特定の表現型がありながらSGTでは陰性の結果が返却される場合や、家族歴が乏しいあるいは家族歴情報が得られないケースで利点があると考えられる。MGPTでは、検査前の表現型等では予測されなかった予想外の遺伝性腫瘍診断に至るケースも経験される。MGPTでは、医学的管理が定まっていない中~低浸透率の遺伝子に病的バリアントが検出される場合がある。中リスク遺伝子の病的バリアント保持者でのサーベイランスメニューをどう策定するかは、可能な限りのエビデンスにもとづいた検討が必要となる。MGPTでは、解析遺伝子数が増えることで、病的意義不明バリアント(Variant of Uncertain Significance; VUS)の検出が増えると言われる。VUSの解釈や対応には標準化された手順が必要である。VUSは新たなエビデンス構築に資する資源であるという認識も遺伝性腫瘍診療の当事者には必要かもしれない。クライエントへの分かりやすい説明や結果受けとめへの支援はMGPTに限らず遺伝医療のあらゆる場面で求められる。MGPTでは病的バリアント陰性を確認する意義も重視される。本演題では、遺伝性腫瘍診断におけるMGPTのメリットをはじめ、中リスク遺伝子バリアント保持例に対するサーベイランスメニュー策定の例、VUS対応の例などを交えて、遺伝性腫瘍診断でのMGPTの活用について議論する。施設横断的なMGPTの使用経験なども交えて、MGPTが遺伝性腫瘍診療で汎用化された遺伝学的検査となるうえで求められるものなど、遺伝性腫瘍診断の方向性を考えたい。