難聴のみが症状である非症候群性難聴は、現在までに120を超える原因遺伝子が同定されており、それに症候群性難聴の原因遺伝子を加えると数百の遺伝子が難聴に関与していることが推測されている。難聴遺伝子は幅広い多様な病態を取り得るが、すべて「難聴」という共通した表現型をとるため(遺伝的異質性:genetic heterogeneity)、実際に外来に受診する一人の難聴患者の診断および治療の際に、どの遺伝子が原因となっているかを特定するためには網羅的な遺伝学的検査が必要不可欠である。多くの遺伝子を網羅的に解析する手法として、我々はインベーダー法を先天性難聴の遺伝子診断に応用し、2008年からの信州大学での先進医療を経て、2012年からは「遺伝学的検査(先天性難聴)」として保険収載され、日常診断ツールとして遺伝学的検査が利用可能となった。その後さらに診断率を上げるために、次世代シーケンサーを用いた遺伝子診断の臨床応用を進め、2015年8月には検査法を次世代シークエンス法とインベーダー法の併用とすることにより解析対象が19遺伝子に増加した。2022年には日本人難聴患者10,047名に対し63難聴遺伝子パネルを用い次世代シーケンサー解析を行い、約40%の患者に様々な難聴遺伝子に難聴の原因となるバリアント(変異)が見出されることを明らかにした。これは難聴患者の遺伝的背景を次世代シークエンサーで解析したデータとしては世界最大のデータである。このデータを基に保険検査の大幅なアップグレード(50遺伝子1135変異)が行われ、遺伝子診断に基づく難聴医療が行われている。現在、さらなる診断率向上のために159難聴遺伝子パネルの臨床応用が進められている。遺伝学的検査は聴力型や重症度・予後などの多くの有用な科学的情報が得られるため、現在小児人工内耳適用基準や指定難病の要件に加えられるなど難聴患者の診断や治療に必須のツールとなっている。現在、全国の大学病院や難聴拠点医療施設など約100以上の施設で年間約1500件あまりの遺伝子診断が実施され、難聴の診療に役立てられている。