創薬は難しい。大手製薬企業に在籍しても一生に一つ新しい薬を世に送り出せるとは限らない。そんな厳しい現実の中で、国も企業も大学もイノベーションを生み出すために様々な新しい取り組みをしている。私は2011年から5年間、京都大学と住友ファーマの産学連携プロジェクトであるDSKプロジェクトに参加した。このプロジェクトは若手の独立PIと企業の創薬部門を一つの器に入れてその化学反応から何かが生まれるのを期待したものだった。病気のメカニズムを知りたい基礎研究者と薬を作りたい企業研究者のマッチングから「白血病発症に必須のタンパク質間相互作用を阻害する分子標的薬」DSP-5336が生み出され、臨床試験が始まった。まだ道半ばであるが、産学連携プロジェクトから薬が生み出された一例としてその過程を振り返り、良かった点や難しかった点などを皆さんと共有したい。
私は、DSKプロジェクト以前は国立がん研究センターやスタンフォード大学にてMLL遺伝子異常を持つ白血病の発症メカニズムについての基礎研究に従事していた。独立PIポジションを探していた時にDSKプロジェクトの事を知り、縁あって参画の機会を得た。このプロジェクトは研究費が支給されるという若手PIにとっては大変魅力的なポジションだった。一方でこれは産学連携プロジェクトであり、何かしら産業貢献を求められるという条件があった。斯くして薬作りに携わったことのない基礎研究者が企業研究者と同じ建物の中で議論し、新しい薬作りに取り組む挑戦が始まった。私にとって幸運だったのは一緒に取り組む企業研究者が同年代であり、新しい薬を作ろうという意欲が高い人たちだったことだ。アカデミアとインダストリーの文化の違いもあったけれど、最終的にはお互いを認め合って一つの目標に向かっていくことができた。DSKプロジェクト期間中に特許申請に辿り着き、プロジェクト終了後もAMEDのACT-M研究費の支援を受けて適応拡大研究に進展した。この間、幾多の危機(社内評価など)を乗り越えて臨床試験に辿り着いた。産学連携プロジェクトにおいて重要なのは産と学が対等である事だと思う。お互いがお互いの要求を聞く必要がある。
最後に我々が開発した薬について紹介したい。MLLタンパク質は遺伝子のプロモーターに結合して転写を活性化する。染色体転座によってMLLと別の遺伝子が融合したMLL融合遺伝子が形成され、この遺伝子産物が「異常な活性化型MLLタンパク質」として働くことで白血病が引き起こされる。MLL融合タンパク質はMENINという共作用因子と結合することでプロモーターに作用するようになる。MENINとMLLタンパク質の分子間結合を阻害する低分子化合物DSP-5336はMLL融合タンパク質の機能を失わせ、白血病細胞の分化を誘導する。DSP-5336は優れた薬物動態と副作用の少なさを兼ね備えた化合物であり、現在日米加で急性骨髄性白血病について臨床試験が進行中である。