【目的】内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)は早期消化管癌に対する第一選択治療法であるが、術後出血が問題となる。ESD後出血には多くの因子が関連するものの、抗血栓薬は最大のリスク要因である。現在、抗血栓薬服用者に対する内視鏡診療はガイドラインを遵守した対策が徹底されるが、非服用者と比較した術後出血率は数~10倍である。直接作用型経口抗凝固薬(DOAC)はワルファリンよりも薬効の個人間差が少なく、固定用量での投与が可能だが、実際にはPK/PDに個人間差が存在する。DOAC内服者の出血イベントは血中濃度と密接に相関し、血中濃度が高い症例で大出血のリスクが増加することが報告されている。今回、我々はガイドラインに準拠して早期消化管癌に対してESDを施行したDOAC(第Xa因子阻害薬)内服患者を対象に、ESD後出血に対するDOACのPK/PDとの関連性を検証するために本研究を立案した。【方法】2018年4月より2022年5月までに東京医科大学を含む全国23施設でガイドラインに準拠してESDを施行したDOAC内服例を対象に、トラフ時とTmax時のDOAC血中濃度とXa活性を測定し、術後出血の発生との関連性を検討した。またDOAC輸送と代謝に影響するABCB1(1236C>T、2677 G>T/A、4535C>T)、ABCG2 (421C>A)、CYP3A5の遺伝子型を測定し、後出血との関連性も検討した。【結果・考察】本研究のESD後出血率は12.8%(95%CI: 7.2%-20.6%)であった。トラフ時とTmax時の血中濃度や体重と投与量で補正したC/D比は各薬剤とも個人間格差が大きかったが、血中濃度とXa活性との間に正の相関を認めた。DOAC輸送と代謝に影響する遺伝子多型は多型間で血中濃度とXa活性で有意な差を認めた。多変量解析では後出血には年齢(OR: 1.217, 95%CI: 1.017-1.455, p=0.032)、アスピリン併用(19.524, 1.101-346.298, p=0.043)、Xa活性がトラフ時に80%以下+Tmax時に60%以下(6.493, 1.128-37.385, p=0.036)の3因子で有意なリスク増加を認めた。【結論】今回の多施設前向き研究では、DOAC内服者の後出血率は12.8%と非内服者の2倍以上と高く、特にLDA併用の高齢者で、かつDOACの抗凝固作用が高い症例で後出血のリスクが高いことが証明された。術前にXa活性を測定し、対策法を対応する個別化治療が有用と考えられ、他の観血的な内視鏡的治療や外科的治療を行う際にも応用できる可能性がある。