【目的】医薬品と有害事象の因果関係評価は、医薬品の安全性を担保する上で極めて重要だが、臨床現場から規制当局に寄せられる副作用疑い症例報告は、情報不足で因果関係が評価できないことが多い。その中でも致死的な脳出血症例は、評価に必要な情報が不足しやすい事象の一つである。本研究では、病院電子カルテ情報を用いて、医薬品と致死的脳出血の因果関係評価をすることが可能か検討する。
【方法】2020年1月1日~12月31日に東京大学医学部附属病院で死亡した患者を抽出し、電子カルテ情報を精査した。本研究では、入院期間中または入院直前の外来で実施された画像検査において脳出血を認めた症例を対象とした。脳神経外科専門医2人が同じ症例の情報を閲覧し、脳出血の発症について使用医薬品との関連を検討した。因果関係評価のツールとして、発表者が作成した脳出血に特化した評価手法(太田アルゴリズム)と、Naranjoアルゴリズムを用いた。因果関係評価ツールに含まれるそれぞれの設問に対して、二人の評価者による回答(「Yes」「No」「No information/Do not know」)の頻度を集計した。また、アルゴリズムの信頼性を評価するため、評価者間一致度も確認した。
【結果・考察】判断の根拠となる情報が不十分であることを意味する「No information」を選択した割合は、太田アルゴリズムで35.6%(95%CI:31.4 - 40.6)、選択回数が最も少ない質問は「重篤な脳出血であったか」で1回、最も多い質問は「脳出血発症時に疑われる薬剤の血中濃度が十分に高かったか」で39回だった。Naranjoアルゴリズムでは、「Do not know」を選択した割合は66.9%(95%CI:62.5 - 71.1)であり、太田アルゴリズムと比較して有意に多かった(p<0.0001)。死亡事例の評価において回答が極めて困難または不可能な設問(リチャレンジ等)では、ほぼ全ての事例で「Do not know」が選択された。評価者間一致度は、太田アルゴリズムで91.7%(κ係数0.867)、Naranjoアルゴリズムで70.8%(κ係数0.139)だった。太田アルゴリズムを用いた因果関係評価に必要な情報は、診療情報から十分に得られることが示された。
【結論】医薬品と致死的脳出血の因果関係は、診療記録に含まれる情報によって評価可能である。規制当局に副作用疑い症例を報告する際には、評価に必要な情報を適切に含めるべきである。
【謝辞】本研究はJSPS科研費 JP22K15335の助成を受けたものである。