【目的】SARS-CoV-2による感染症に対する治療薬であるエンシトレルビルの承認用法用量は1日1回5日間(初日は負荷用量として375 mg,2~5日目は維持用量として125 mg)の反復経口投与であり,症状発現から3日目までに投与開始された患者で有効性が推定された.これまでにSARS-CoV-2のウイルス動態を説明可能な数理モデルを構築していたことから1),本研究ではエンシトレルビル投与後のウイルス動態を説明できる薬効モデルを構築した.さらに,様々な投与条件におけるウイルス動態予測から承認用法用量の適切性を評価した.
【方法】エンシトレルビルの薬効モデルはSARS-CoV-2のウイルス動態モデル1)に基づき,本剤の母集団薬物動態モデル及び第2/3相臨床試験の鼻咽頭ぬぐい液から採取した総ウイルスRNA量データ2-4)から構築した.抗ウイルス作用の薬力学的モデルとしてEmaxモデルを選択し,抗ウイルス活性 (EC50) はヒト初代培養気道上皮細胞を用いたSARS-CoV-2に対する最小値及び最大値を用いた.また,症状発現から投与開始までの時間と本剤による最大薬効 (Emax) の関係性を評価した.構築したモデルで,投与期間を1~10日で変更した場合のウイルス動態を予測した.解析にはNONMEMを用いた.
【結果・考察】エンシトレルビルによるウイルス量減少効果を説明するため,濃度依存的にウイルス消失を促進し,症状発現から投与開始までの時間によってEmaxが指数関数的に減弱するモデルが選択され,症状発現1日後に投与開始した場合と比べて5日後で約10%にまで減弱すると推定された.様々な投与条件でのシミュレーションでは,最小EC50の場合,本剤によるウイルス量減少効果は投与条件に関わらず同程度と考えられた.最大EC50では,5日間投与において未投与時と比較した際の最大ウイルス減少量を達成でき,10日間投与と同程度の薬効が期待できることが示された.
【結論】エンシトレルビル投与時のSARS-CoV-2ウイルス動態及び症状発現から投与開始までの時間と薬効の関係性を説明できるモデルを構築できた.本剤の投与期間を延ばしても期待されるウイルス減少効果は変わらないというシミュレーション結果は,承認用法用量の適切性を支持するものであった.
【参考文献】1) Yamaguchi D et al. Abst., 10303. PAGE 2023. 2) Mukae H et al. AAC. 2022. 3) Mukae H et al. Clin Infect Dis. 2023. 4) Yotsuyanagi H et al. Medicine (Baltimore). 2023.