【目的】ミコフェノール酸 (MPA) のプロドラッグ体ミコフェノール酸モフェチル (MMF) は、広く使用されている免疫抑制剤である。MMFは経口投与後に体内に吸収され、活性体MPAに加水分解される。MPAは肝臓にて薬理活性がないグルクロン酸抱合体 (MPAG) に代謝される。MPAGは胆汁中に排泄され、腸管内で加水分解を受け再びMPAとなり吸収される。MMFの個別化投与設計の有用な指標としてMPAのAUC0-12が報告されているが、MPAの吸収遅延および腸肝循環など薬物動態の大きな個体間変動が知られている。本研究ではMPAの薬物動態を予測する母集団薬物動態 (popPK) モデルを構築し、モデルに基づいた推奨投与量を提案することを目的とした。
【方法】2011年4月から2019年9月の間に長崎大学病院にてMMFを投与された腎移植患者42例を対象とした。得られた血中MPA濃度312点を基に非線形混合効果モデルプログラム (NONMEM 7.5.1) を使用してpopPKモデルを構築した。吸収過程にはゼロ次吸収、一次吸収および吸収コンパートメントを含め網羅的に数理モデルを検討した。消失過程には一次消失に加えて腸肝循環を含むモデルを検討した。構築したpopPKモデルを使用し、腎移植患者におけるMPAのAUC0-12を予測した。本研究は長崎大学病院臨床研究倫理委員会 (14052645-6) および日本大学薬学部臨床研究に関する倫理審査委員会 (19-018) の承認を得て実施した。
【結果・考察】MPAの薬物動態は吸収過程にラグタイムを含むゼロ次および一次吸収を組み込んだ2-コンパートメントモデルで記述された。消失過程には中心コンパートメントからの一次消失が選択され、腸肝循環は有意なモデルとして選択されなかった。構造モデルはアロメトリースケーリングを基本とし、共変量としてクリアランスに腎機能およびアルブミン値、バイオアベイラビリティに移植後経過日数が選択された。構築したモデルを基にAUC0-12を予測した結果、移植後早期は1回投与量を500-1000 mgとし、その後腎機能及びアルブミン値に応じて用量調節することで、目標とするAUC0-12を達成する可能性が高いことが示唆された。
【結論】本研究では、吸収過程に着目しMPAの薬物動態を適切に記述できるモデルを構築した。MPAの薬物動態には腎機能、アルブミン値および移植後経過日数が影響することが明らかとなった。本モデルから得られた知見は日本人腎移植患者における個別投与量の検討に貢献できると考えられる。