【目的】
急性・慢性心不全治療ガイドラインでは、HFrEF患者に対してはARNIの使用が推奨されており、その投与量は可能な限り最大投与量(400mg/day)を目指すことが明示されている。しかし、臨床現場ではARNIの最大投与量に達していない例が多い。本研究では、ARNIの使用実態と増量を妨げている要因を明らかにすることで、病院薬剤師が今後どのように関与していけるかを検討した。
【方法】
2020年10月から2023年3月にARNIを開始した入院患者150名を対象とし、開始用量・4週間後の投与量に基づき、非増量群と増量群に分類し、バイタルサイン・検査データ・併用薬などを後方視的調査して単変量解析で比較した。また、増量を妨げている要因は多重ロジスティック回帰分析で解析を行った。なお、情報が不足している患者は除外とした。
【結果】
対象患者は121名(除外29名)、男性50名・女性71名、年齢中央値は89歳であった。ARNI開始時では1日量100mg以下の患者が115名(95%)、4週間後では1日量100mg以下が86名(71.1%)、150mg以上400mg未満が31名(25.6%)、400mgが4名(3.3%)であり、非増量群(87名)と増量群(34名)で比較すると、ARNI開始時の収縮期血圧、4週間後の血清クレアチニン値、睡眠薬の有無の要因に有意差が認められた。なお、多重ロジスティック回帰分析では、ARNI開始時の収縮期血圧(OR:1.03、95%CI:1.01-1.06、P<0.05)が最もARNI増量に影響を及ぼす要因となった。
【考察・結語】
ARNI開始用量については、1日量が100mg以下の患者が95%を占め、適切な用量が投与されていた。しかし、4週間後ではARNIの最大投与量に達していない患者が96.7%、開始用量から増量されていない患者が71.9%と、増量が十分に行われていない状況であり、ARNI開始時の収縮期血圧が増量に影響を及ぼすことが要因であると示唆された。これは、収縮期血圧が心血管系の負荷やHFrEF患者の状態を反映する重要な指標であり、血圧が低い患者ほど、ARNIの増量が難しいことを示している。したがって、ARNIを開始用量から増量していくためには、他の降圧薬を段階的に減量し、二次性低血圧のリスクを減らすことが有効なアプローチと考えられる。それ以外にも、腎機能を反映する血清クレアチニン値の変動やふらつきのリスクとなる睡眠薬の有無を確認することも重要だと思われる。今後は、医師と連携し患者毎の最大忍容用量へ達するように関与していく必要があると考える。