【目的】近年、一分子で複数の異なる標的に結合可能な多重特異性抗体の開発が進み、これらを使用した治験の数も増加してきている。既に承認されているブリナツモマブ等と同様に、これらの多重特異性抗体では副作用としてサイトカイン放出症候群(以下、CRS)の管理が必要となる。CRSの治療として用いられるトシリズマブは、適応上の問題から治験使用薬として依頼者提供となることが多いが、日勤帯のみならず夜間に緊急で払い出す可能性があるため、運用について他部署との調整等が必要となった。
【方法】院内でがん免疫療法ガイドライン等に基づいて作成されたCRS対応マニュアルに沿って、Grade2以上のCRSが出現し医師が必要と判断した場合には、トシリズマブを速やかに薬剤部から病棟へ払い出せる体制を整えた。トシリズマブの日勤帯および夜間当直帯使用分のオーダー方法、薬剤部からの払い出し方法、病棟での調製方法、調製記録が必要な試験についてはその記載方法について依頼者と交渉し、また院内の他部署と連携し取り決めを行った。トシリズマブの温度管理は薬剤部のみで行い、病棟に払い出し後に使用されなかったものについて再利用は不可とした。
【結果】当院での多重特異性抗体を用いた治験の受託は2020年度:1件、2021年度:2件、2022年度:4件であった。この間Grade2以上のCRSが出現し、ステロイド投与後に治験使用薬のトシリズマブの投与が必要となった事例は2件であった。いずれも夜間当直帯での払い出しが必要な事例であったが、マニュアル通りに払い出し、被験者に適切に投与された。
【考察】夜間に緊急で治験使用薬の投与が必要になった際、処方医や調剤者、調製者等に制約が生じるため、依頼者からの要望に対して医療機関側の実務に即した運用になるよう交渉することや、本治験に関わる院内スタッフとの連携や周知など細かな検討が必要になるが、円滑な治験実施のため重要な事項であると考えられる。