【目的】
健康成人対象試験を含む臨床薬理試験において、ヘモグロビン(Hb)値は重要な評価項目の一つである。
一般的には、Hb値を評価し、適格性(貧血の有無)や有害事象(貧血やHb減少など)を判定する。
一方、貧血だけでなく、鉄欠乏性貧血の前段階である潜在性鉄欠乏状態も把握する事は臨床的に重要である。
したがって採血量が多い試験や有害事象(貧血やHb減少)が予想される試験では、被験者の安全性を担保・評価する為には、“高率に鉄欠乏状態にあるものの,貧血に至る比率は高くなく潜在性鉄欠乏に留まっている『貧血のない鉄欠乏』”の評価も重要と考えられるが、貧血に至る比率は高くないため、Hb値での評価は難しい。
【方法】
Hb13.0g/dL(WHO貧血の診断基準参照)以上かつ健康男性と診断された20-45歳の1951例を対象として、『鉄剤の適正使用による貧血治療指針【第3版】(日本鉄バイオサイエンス学会)』を参考に、フェリチン値を基に3グループに分け、赤血球系項目(Hb他)、鉄関連項目(血清鉄、TIBC、フェリチン(Fer)、トランスフェリン飽和指数(TSAT))との関連性を検討した。
(1)潜在性鉄欠乏(Fer<12ng/mL)
(2)鉄の減少状態(12ng/mL≦Fer<25ng/mL)
(3)正常域(25ng/mL≦Fer<250ng/mL)
【結果・考察】
(1)潜在性鉄欠乏は全体の1.7%(33例)、(2)鉄の減少状態は4.0%(79例)、(3)正常域は94.3%(1839例)であった。Hbの平均は(1)14.0g/dL、(2)14.7g/dL、(3)15.2g/dLと基準値(13.5~17.5g/dL)内であり、基準値内の割合は(1)84.8%(28例)、(2)94.9%(75例)、(3)97.9%(1801例)であった。
TIBCの平均は(1)393ug/dL(検査例数18例)、(2)355ug/dL(同41例)、(3)318ug/dL(同1051例)であった。
TSATの平均は(1)19.7%、(2)28.1%、(3)35.0%であった。
【結論】
WHOの貧血の診断基準では貧血と判定されない健康成人男性でも、鉄関連項目を測定することで鉄欠乏性貧血の前段階である『貧血のない鉄欠乏状態』を見出せることが我々の検討からも確認できた。
鉄の減少状態と潜在性鉄欠乏を合わせた『貧血のない鉄欠乏』の割合は、健康成人男性では5.7%であり決して稀とは言えない。
したがって採血量が多い試験、有害事象(貧血やHb減少)が予想される試験、臨床検査データが乏しい第1相試験などでは、鉄関連検査を実施することで、『貧血のない鉄欠乏状態』を把握でき、被験者の安全性をより担保・評価できると考えられる。